スペインには200種類ほどのチーズがあると言われ、日本には15種類程が輸入されています。
生産量、国内消費、輸出で、スペイン代表は、ケソ・マンチェゴです。スペインの中央部、17州で3番目に広い、大陸性気候のカスティーリャ・ラ・マンチャ地方のラ・マンチャで、マンチェガ種の羊乳から作られるチーズです。土地、羊、チーズの名前が同じです。12~16世紀に繁栄した羊毛産業は化学繊維へ移りましたが、食用、乳業、乳製品として牧羊の価値を保って来ました。
職人の手作りするマンチェゴは無殺菌乳、工場制のものは低温殺菌乳から作られます。円筒形のチーズの側面には、網目の模様が付いています。昔はエスパルトという茅(かや)で編んだ帯で巻いて成形したためで、今はプラスチックの型に変わりましたが、型の内側に施された網目で、オリジナルと同じ模様を付けています。上下面にも模様があります。
マンチェゴは、DOP(原産地名称保護)に登録されており、ラベルのモチーフは小説「ドン・キホーテ」の主人公です。スペインの偉大な作家、セルバンテスが、17世紀初めに書いたこの小説の舞台は、カスティーリャ・ラ・マンチャ地方、点々と風車がある乾燥したメセタ(平原)です。妄想で騎士になりきった主人公が、珍道中にマンチェゴを携え食べる様子が描かれており、古くから良く食べられていた事がわかります。ミュージカルにもなり、題名は「ラ・マンチャの男」です。
DOP(原産地名称保護)の規定と特徴は、以下の通りです。
マンチェガ種の羊の乳で作られた圧搾チーズ(プレスして水分を分離する)で、熟成期間は、重量が 1.5 Kg 以下のものは 最低 30 日、1.5 Kg を超えるものは60 日から最長 2 年です。
形はほぼ平らな面を持つ円筒形で、高さは最大12 cm で、直径は最大22cmです。重量は 0.4 ~ 4 Kg。外皮の中身は固く詰まっており、目が小さく不均一に分布しているものがあります。色は熟成期間により、白から黄色がかったアイボリーまで、さまざまです。
はっきりとした乳酸の香りが感じられ持続して、長期熟成するほどスパイシーなニュアンスになります。風味は酸味が強く、香り同様、熟成度の高いチーズではスパイシーになります。マンチェガ種の羊のミルク特有の、心地よい余韻が続きます。弾力性が低く、バターのような感じとやや粉っぽさがあり、長熟したものはアミノ酸が粒状になります。
アルバセテ、シウダ・レアル、クエンカ、トレドの4県からなるラ・マンチャ内で、乳の生産、チーズの生産と熟成が行われなくてはなりません。小分けにカット、スライス、またはすりおろしても、包装されその由来がわかる限り、「ケソ・マンチェゴ」として販売することができます。この加工作業は「マンチェゴ」のトレーサビリティと管理全般を保証するために確立された、規定に準拠する企業によって行われ、原産地外ですることも許されます。
真正のマンチェゴには原産地名称保護のラベルが付され、生乳で作られている場合は職人製を表す「アルテサノ」と記載されます。統制委員会が番号付きラベルを発行します。個々のマンチェゴに、成形と圧搾する段階で、片面に番号とシリアル番号の記されたカゼインプレートという印が付けられます。
一般的にチーズは異なる熟成期間で作られます。7日の熟成はtierno(ティエルノ)またはfresco(フレスコ)、3か月はsemicurado(セミクラド)、4~7か月はcurado(クラド)、7~9か月、1年、2年など長期熟成したものがmuy curado (ムイクラド)やviejo(ビエホ)と言う具合です。
マンチェゴの熟成期間は、以前に比べやや短めが推奨されます。30日から2年までで、若い時の色は白っぽく、質感はしっとりとして、羊乳のほのかな甘い香りと味わいがします。熟成が進むにつれ、色は少しずつアイボリーへと濃くなり、水分が減ってナッツの様な香り、ミルクの甘みと同時にコクのある味わいになります。2年熟成では、アミノ酸が結晶化して、じゃりっとした食感に、塩味、旨味が凝縮しています。
ラ・マンチャはアラビア語で、水のない土地・高原を意味するそうです。植生は粗く、一年を通じて放牧される羊は、雑木林、穀物畑の刈株、ぶどう畑の草などを食べます。DOP登録に、羊の餌になる植物、それを食べた羊のミルクの味わいとケソ・マンチェゴの風味の特徴が記されています。
カスティーリャ・ラ・マンチャ地方は、スペインのぶどう栽培面積の約半分を占める最大のワインの産地です。DOラ・マンチャと、その南に隣接するDOヴァルデペニャスは、スペインで最初のDOを1932年に取得したエリアで、従来のテーブルワインから高品質なものへ変化しています。さらに、ラ・マンチャ周辺地域には新潮流があります。単一の優れた畑のワイナリーに付されるVino de Pagos (ヴィノデパゴス、VP)というカテゴリーが、VP Dominio de ValdepusaのMarqués de GriñónやVP Finca Élez を皮切りに増え、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニョンなどの国際品種ぶどうのワインが注目を集めています。
若いマンチェゴは、ほのかな酸味が残り、軽めの白ワインと相性が良く、最も多く栽培されている白ぶどう、アイレンのカジュアルなワインや、南部アンダルシア地方のシェリーの、ドライなフィノやマンサニージャなどがよく合います。羊のミルクのほんのりした甘みには、フルーティーな白ワインが口当たり良く楽しめます。赤ワインでは、DOヴァルデペニャスのcencibel(センシベル、テンプラニーリョのこの地方での名)が、テンプラニーリョのワインの中では軽めでぴったりです。
熟成が長いマンチェゴは、しっかり目で複雑なワインとバランスが取れます。例えば、センシベル品種の赤ワインの少し熟成したもの、DOリオハやDOリベラ・デル・ドゥエロのテンプラニーリョの樽熟成、よりボディのあるものです。ラ・マンチャとバレンシア州の間の、DO Manchuela(マンチュエラ)はBobal(ボバル)から土着品種らしい野性味が魅力のワインを造っていて、それを合わせれば上級者!シェリーは、酸化熟成タイプでボリューム感のある、オロロソやアモンティリャードがナッツの香りで同調します。Vino de Pagosのシャルドネやカベルネ・ソーヴィニョンのワインとのペアリングも試してみてください。
3年前の日本のソムリエ認定試験に出題されるなど、今やグルメの世界で知られるマンチェゴの楽しみ方はいろいろです。
業務用マンチェゴは約3kgのホールで真空パックになっています。小売は、200g程度のカットのパックや、チーズ専門店なら量り売りで買えます。
ホールが円筒形のマンチェゴは、まずケーキを切るように、6~8等分にカットします。上下の外皮を取り除きます。縦にさらに半分にカットしても良いでしょう。横に倒し、上下面に平行に数ミリ厚さにナイフでスライスします。ホームパーティーでは、側面の網目を活かす、プレゼンテーションのアレンジもぜひ試して下さい。工場製のマンチェゴの外皮は、黒いワックスでコーティングされているので、食べられません。
羊乳は牛乳、山羊乳より脂肪分が高く、カットしてしばらくすると表面に脂が浮いてきますが、美味しく食べられます。切り残りは、アルミ箔やワックスペーパーでカット面を被い、ラップで密封して、冷蔵庫で保管します。カット面は酸化するため、次に食べる時はまず表面をナイフで薄くそぎ取ります。
(画像 THE CHEESE ROOM)
スペイン中で、朝から晩まで、生ハム、チョリソ(パプリカ、スパイス入りサラミソーセージ)、パン・コン・トマテ(トーストしたパンにトマト、にんにく、オリーブオイルの風味をつけたもの)と一緒に、あるいは若いマンチェゴをはさんだボカディジョ(サンドイッチ)が食べられます。はちみつ、ジャム、メンブリージョ(かりんを砂糖で煮詰めた羊羹のようなもの)がよく添えられています。
日本のスペインバルやレストランでも、マンチェゴはポピュラーです。メンブリージョはチーズ専門店で輸入品を買えますし、レストランやスペイン菓子専門店では自家製もあります。メンブリージョの作り方は簡単ですので、秋が旬のかりんを、山梨、長野、香川などの農家から取り寄せて、手作りをケソ・マンチェゴに添え、スペインワインと一緒にホームパーティーで出せば盛り上がります。ラ・マンチャ地方のワインを探して、楽しんではいかがですか?
<材料>
・ かりん 1㎏(普通サイズで3個くらい)
・ グラニュー糖
・ レモン汁
<作り方>
※ レモン汁を入れず、酸味を控えめにも作れます。
※ ペクチンの多いフルーツなので、ゲル化剤を入れなくても自然にゼリー状に固まります。
※ 冷蔵でも、冷凍でも保存可能です。
※ 煮込む時間を15分くらいで止めると、ソースとしても使えます。