12月も中旬になると、世界のあちこちで、華やいだ装飾やイルミネーションが施され、マーケットがたち、クリスマスツリー点灯式のカウントダウンや有名百貨店のウインドー・ディスプレイに人だかりができます。
カトリックが今も主流のスペインらしい装飾と言えば、ベツレヘムでのキリスト降誕を再現したベレン (Belén) です。聖ヨセフ、聖母マリア、幼子イエスと、天使、東方の三賢王、羊と羊飼い、牛などの像を並べた、ミニチュアから等身大のものまである装飾です。
11月末から1月6日まで、王宮、教会、修道院、歴史博物館、市庁舎や、スペインのどの町にもあるPlaza Mayor (大広場)にも設置され、公開期間が施設や観光情報のウェブサイトなどで告知されます。家の中に飾る人もいて、聖書やキリスト教関連のものを扱う店や、クリスマスのメルカド(マーケット)で、登場人物のミニチュアを買い集めて並べます。ローマから始まり、何世紀も通じてキリスト教の国々に広まりました。
ベレン (Belén) の場面は、 「新約聖書」 によると、東の方でお告げの星を見た3人の占星術者が、キリスト誕生から12日目に、駱駝に乗ってベツレヘムにたどり着き、キリストに会い崇拝を伝え、祝いの贈り物をとどけたとされています。東方とは、バビロン(古代メソポタミアの首都)と考えられ、現在のイラクにあたる地域で、そこから見て西方のベツレヘムはパレスチナ自治区にあります。
キリスト誕生から12日目に当たる1月6日は、公現祭 (スペイン語でEpifanía、キリストが初めて人前に姿を見せた日) と呼ばれ、1月5日には各地でパレードなどが行われます。そのため、スペインでは12月25日だけがクリスマスのハイライトではなく、翌年の1月6日まで続きます。
クリスマスはスペイン語でNavidadと言います。12月中は、伝統的なアーモンド菓子の トゥロン、ポルボロン、マンテカード、マサパンを食べて Navidadを迎えますが、1月5日から6日は、ロスコン・デ・レジェス (Roscon de Reyes) を家族や友人と切り分けて食べます。ロスコンの中には、陶器のミニチュアの人形とそら豆が入っていて、人形が当たった人は6日のお祝いが終わるまで王様として扱われます。一方、そら豆が当たった人は、ロスコンの代金を払ってご馳走しなくてはいけません。 このような遊びを皆で楽しみながら、子供たちはプレゼントをもらって、1日を過ごします。
ロスコン・デ・レジェスは、小麦強力粉、牛乳、バター、イースト、砂糖、シナモン、レモンやオレンジウォーターを混ぜた発酵生地に、砂糖漬けのフルーツやアーモンドを上に散らしてオーブンで焼いた、ブリオッシュパンの様な生地の、リング状の甘いケーキです。
上下を2つに切って間にクリームやチョコレートクリームをはさんだものもあります。パステレリア(お菓子屋)やパナデリア(パン屋)で買うと、1日王様がかぶる、金色の紙の王冠を一緒にくれます。上に散りばめられている、砂糖漬けにした赤いチェリーや緑のアンゼリカ、オレンジのスライスなど、色とりどりのフルーツと砂糖粒は、王冠の宝石を模しています。
クリームの有り無し、フルーツかナッツか?など、好みは分かれます。サイズやお店により、20ユーロから40ユーロくらいで売られています。スーパーにはより手ごろなものもあります。1日に1000個を売るお店もあります。
東方からベツレヘムへキリストに会いに来た3人は、スペインではLos Reyes Magos (ロス・レジェス・マゴス) と呼ばれ、日本語では、東方の三賢王、または三賢人、三賢者と訳されます。 Reyes は王様、Magos は現代的に言えば、一種の占星術師で、魔術を使うように超自然的な力で、目標を達成することができる賢者なのだそうです。東洋人は医者を 「魔術師」 と呼んだとか、ペルシャ語の 「マジシャン」 は 「司祭」 を意味する、という解釈もあります。
「Roscon de Reyes」 を 「Los Reyes Magos」 がベツレヘムに着いた日に食べる習慣の起源についても、いろいろな説がありますが、一致した結論は、それは今日のケーキとは関係がない、と言うことです!
大筋は、紀元前のローマで、今の12月21と22日に当たる冬至の頃、農作業が終わることを祝う祭りに、ナッツ、ナツメヤシ、イチジク、はちみつのケーキを異教徒が食べており、その後キリスト教がローマ帝国の国教になると、ケーキは形を変えながら、キリスト教国で食べられてきました。その間、豊饒や幸運の象徴とされていたそら豆がケーキに入るようになり、18世紀にフランス・ブルボン朝のルイ15世の料理人が王を喜ばせようと金貨も入れてからは、幸運のシンボルはそら豆から金貨、のちに人形にとって代わられます。
ルイ15世はスペインのナバラ国王でもあり、ルイ14世の孫はフェリペ 5世としてスペイン・ブルボン朝の初代国王になったという、当時のフランスとスペインの王たちの密な親戚関係を通じて、多くのことがスペインに伝わりました。
フランスでも1月6日に王様のケーキを食べ、陶器のミニチュアが当たった人が紙の王冠をかぶるという習慣があります。北部からフランス全体の2/3ほどの地域では、ガレットと呼ばれる、真ん中に穴がないパイ生地に、アーモンドのクリームを入れたお菓子ですが、南部ではクーロンヌ(王冠)と言う名前で、オレンジフラワー・ウォーターで風味をつけた、リング型のブリオッシュ生地に、砂糖漬けのフルーツをのせ、砂糖粒を沢山まぶしてあるもので、こちらはスペインのロスコンにとても良く似ています。 陶器のミニチュアは、今日では人形のほか食べ物、動物、自動車など、あらゆる形がありますが、今でもフランス語で 「そら豆」 を意味する 「フェーヴ」 と呼ばれ、幸運の印であるのに対して、スペインではそら豆の方は 「ケーキ代の支払い役」 なので、当たりたくないものになってしまいました。
このように、実はキリストの誕生とは直接の関係がないケーキですが、古くは冬至に食べていたこと、Reyes (レジェス、王) と呼ばれる東方の3人や、フランスとスペインの王様たちの逸話が、ロスコン・デ・レジェスと一緒に語り継がれています。
ロスコンには、地方の個性もあります。北西部のガリシア地方では、伝統的なレシピのロスコン(ロスカ) は、レモンとオレンジの皮が入ったアニス(せり科の薬草のリキュール)と、砂糖漬けフルーツのものと決まっていて、クリームを挟んだり、チョコレートのコーティングはしません。中央部やや北西のレオン州のロスコンは、アニスシードとオレンジジュースが入っています。 マドリッド州のチンチョンは、アニスが地理的表示保護 (IGP) に認証登録されている伝統的な産地で、ロスコンの表面も砂糖と水と甘いアニスを混ぜたものでコーティングするので、見た目は艶があり、アニスの風味も特徴的です。
大人たちは、ロスコンには伝統的に、モスカテルの甘口のワインとか、ラタフィアのような甘いフルーツやスパイスのリキュールを合わせていました。近年では、カバ(スパークリングワイン)と合わせるのも人気があり、特にブルット・ナトゥーレ(補糖がされていない極辛口)なら、ロスコンの甘さとのコントラストを大いに楽しむことができます。
日本ではなかなか買えないロスコンですが、1月6日の前日だけ、東京のスペイン人のパン職人が焼いて、12月30日までの予約限定で、販売します。在日スペイン商工会議所の認定レストランの1つ、東京荻窪の La Dehesaでの受取り、または宅配もしてもらえます。家族や友人と、誰が王様に当たるかを楽しみに切り分けてください。
注文・販売の詳細:https://www.facebook.com/profile.php?id=100076188184202
もしこの時期にスペインを旅するなら、ぜひお菓子とパンのお店で探して味わってください。 ¡ Feliz Navidad !