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トゥロン:スペインのアーモンドのお菓子

12月に入り、スペインでもホリデーシーズンの気分が盛り上がってくる頃、皆が話題にするのは、季節定番のお菓子や贈り物をどこで買うか?ということで、観光やグルメガイドの、お勧めの店5選、とか、パステレリア(菓子店)、グルメ食品専門店や有名百貨店のバスケットに詰め合わせたギフトセットの広告が、ニュースレターやソーシャルメディアに溢れます。

クリスマスはスペイン語でNavidadと言います。トゥロン、ポルボロン、マンテカード、マサパンが、伝統的にこの時期に良く食べられるお菓子で、どれもアーモンドのお菓子なのが特徴です。ギフトセットのCestas de Navidad (ナビダのバスケット) には、これらのスイーツと、イベリコハムやチョリソ(パプリカ入りソーセージ)、スペインワインオリーブオイル、チーズのケソ・マンチェゴなどを詰め合わせます。

アーモンドの産地

トップのアメリカとは大差があるのですが、スペインは世界第二のアーモンド生産国です。品質では、マルコナ種がアメリカ産の涙型のものより、丸みと厚みがあり、甘く苦みの少ない風味が良く、フランスや日本でもマルコナ種を指名して使う菓子職人がいる逸品です。また、マジョルカ種はIGP(地理的表示保護)に認証登録されています。そもそも、アーモンドを世界最大の産地カリフォルニアにもたらしたのは、18世紀のスペインの宣教師と言われています。

2月から3月頃、白く桜に似た花が、スペインの街中、郊外、野山のあちこちで咲き乱れているのを見ることができます。アーモンドの実は、9月から10月頃に収穫されます。

伝統菓子トゥロン

数あるアーモンド菓子のなかでも、トゥロンは人気があります。他の国で一般的にヌガーと言われる、皮を剥きローストしたアーモンドを、高温で練った砂糖、蜂蜜、卵白のメレンゲに混ぜ板状にした、とても甘いお菓子です。

トゥロンの種類

トゥロンには、ローストしたアーモンドを、しっかり煮詰めて練った砂糖、はちみつ、卵白と混ぜて、そのまま固めた硬い「ドゥロduro」 (下の写真右) と、その生地をミル(石臼など)で粉砕し、さらにミキサーで練り、成型した軟らかい「ブランド(Blando)」  (下の写真左) があり、この2種類が一番伝統的で知られています。

「ドゥロDuro」は、結構硬いのですが、乾いた、歯にくっ付きそうな生地を噛むと、中に丸ごとまたは半割で、ぎっしり散りばめられたローストアーモンドが、カリッ!と割れて、香ばしさを楽しめます。香草花のはちみつの風味も感じられます。いろいろな形にカットにして、皿盛りデザートやケーキのトッピングにも使われます。

「ブランド(Blando)」 は、しっかりと乳化され、凝縮したペースト状で、クリーミーな食感です。キャラメルのように硬めに粘りを引くことはなく、口の中で溶けます。ナッツの油脂分が高く、味わいは濃厚です。夏にはトゥロン味のアイスクリームも人気です。

ほかにも、マジパン(アーモンド粉と砂糖の生地)に、卵黄を練りこんだ 「トゥロン・デ・ジェマ」、やフルーツの砂糖煮を混ぜ込んだ 「トゥロン・デ・フルータ」、ココナッツを固めた 「トゥロン・デ・ココ」 などの伝統的なものと、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ入りや、ダークとホワイトチョコレートタイプがあります。

トゥロン発祥の地

トゥロンはスペイン全国で作られ、食べられていますが、地中海沿い南部のバレンシア州アリカンテ県で、1996年にIGP(地理的表示保護)に認証登録された 「I.G.P. Jijona (ヒホナ)」 と 「I.G.P. Turrón de Alicante (トゥロン・デ・アリカンテ)」 の2つの産地が特に有名で、ヒホナが発祥の地、とされています。 ヒホナとアリカンテは20キロほどの距離にあります。

「I.G.P. Jijona (ヒホナ)」 のトゥロンは、軟らかい「ブランド(Blando)」 で、「I.G.P. Turrón de Alicante (トゥロン・デ・アリカンテ)」 は硬い「ドゥロduro」 です。

Jiona
Alicante

2つのIGPのトゥロンの原材料は、バレンシア州のアリカンテ、カステリョン、バレンシアから調達されます。アーモンドには、スプレマとエクストラの2つのカテゴリーがあり、原材料中のアーモンドの最低含有量が規定されています。軟らかいブランドのヒホナはスプレマが64%、エクストラが52%なのに対し、硬いドゥロのアリカンテはスプレマが60%、エクストラが42%と少し低い規定です。アーモンドの品種は、バレンシアーナ、マジョルカ、マルコナ、モジャール、プラネタ、ラルグエタ、が使われます。ヒホナの硬いドゥロのトゥロンは、表面を極薄のウエハースで覆います。

ヘーゼルナッツの円形のトゥロン

2022年6月には、3つ目のIGPとして、「I.G.P. Turrón de Agramunt (トゥロン・デ・アグラムント)」 が認証登録されました。 産地は、カタルーニャ州レリダ県ウルヘルのアグラムントで、ヒホナとアリカンテのあるバレンシア州同様に、地中海沿いで、その北部に位置します。

はちみつ、砂糖、卵白と、ヘーゼルナッツの塊で作るのが特徴で、マルコナ種のアーモンドが入いることもあります。ヘーゼルナッツとアーモンドの含有量の規定は、どちらも、スプレマが60%以上、エクストラが46%以上です。長方形のものに加え、円形のトゥロンが特徴で、丸い極薄のウエハースで挟まれています。

アグラムントには大手トゥロンメーカーがあり、地元やカタルーニャ州都バルセロナの多くの店舗の他、マドリッド、南部アンダルシア、フランスにも店舗があります。ヘーゼルナッツのトゥロンは、ワイン銘醸地のプリオラートの協同組合の売店などでも良く売られています。

トゥロンの起源

ヌガーは地中海沿岸の国々にありますが、スペインのトゥロンの歴史は、500年ほどと言われます。もともとは、11世紀頃、イベリア半島を支配したイスラムやユダヤの人々が、ドライフルーツとはちみつの食文化をもたらしたものを、「I.G.P. Jijona (ヒホナ)」 の地域がスペインの生活文化に組み込んで、トゥロンになりました。この地域には、太古の昔からアーモンドの木とローズマリー、ラベンダー、タイムなどの香草花が多く植生し、これらの風味高いはちみつを採取していました。16世紀頃は近隣地域で、後にバルセロナやマドリッドなど大消費地の市場に売りに行き、17世紀からスペイン全土、さらにヨーロッパでも人気になります。19世紀以降、主に中南米に輸出が始まり、現在は全生産量の約15%が輸出されています。スペイン国内市場では、ヒホナ産が60%以上を占めます。バレンシア、そしてカタルーニャの地中海性気候の農業と、港が近い地理的条件が、スペインのトゥロンの伝統と人気の背景にあると言えます。ヒホナには、トゥロン博物館があり、歴史や作り方について知ることができます。アグラムントにもトゥロン博物館があり、こちらも自分たちが発祥の地、としています。

トゥロンを食べる季節

トゥロンを一番食べるのは、クリスマスが近づく頃です。アーモンドの収穫は夏の終わりから10月くらいで、その後がトゥロンの生産が始まる時期だからです。11月に生産者は、各地のトゥロンやお菓子の市や商業見本市に出店して、売り込みます。

美食大国スペインでは、一つの食材や料理に特化したフェスティバルやコンテストが各地で一年中開催されますが、バレンシアのヒホナ、アリカンテや、カタルーニャのアグラムントでは、トゥロン市が何日かに渡って開かれます。

2022年のヒホナのクリスマス祭り 「La Feria de Navidad de Jijona 」 は12月3日から8日に開催されます。今年は14回目で、人々はクリスマス用のトゥロンやスイーツの買い物を楽しみます。2021年は10万人近くが訪れたそうです。

また、「I.G.P. Jijona Turrón de Alicante」 統制委員会やヒホナ市、アリカンテ県、バレンシア県、スイーツ協会などが、毎年のトゥロンの生産開始の頃に当たる、11月7日を 「世界トゥロンデー」 として祝っていて、50か国以上で消費されていることを理由に、国連総会が11月7日を 「世界トゥロンデー」 として宣言することを目指して、署名活動をしています。

現在は、トゥロンはクリスマスの時期だけでなく、一年中食べられています。老舗の大手メーカーや家族経営のお菓子屋さんが沢山あり、手軽に買えます。目抜き通りでは、屋台の様なスタンドでも山積みにして売っています。

ホテルの朝食ビュッフェにも、トレーにたっぷりのトゥロンが置いてあり、好きなだけナイフで割って食べることができます。日本人には、朝食にイベリコハムや真っ赤なソーセージ、マンチェゴなど羊乳のチーズがずらりと並ぶのも少々驚きですが、こんなに甘いお菓子を朝から沢山食べるの?と思うかもしれません。でもスペイン人は、当然の如くいただきます。特にクリスマスの時期ともなれば。

トゥロンは日本にも輸入されています。スペインに旅行をしたら、お土産にぴったりですので、ぜひお菓子屋さんやデパ地下をのぞいて、好きなフレーバーのトゥロンを見つけてください。空港のグルメショップやお土産コーナーでも買えます。カフェ(コービー)、紅茶、ボディのある赤ワイン、甘口のシェリー、ふくよかで熟成が長めのカバなら、どのタイプのトゥロンにも合います。マンサニージャ(カモミールティー)やミントティーなら、オレンジやレモン、ローズマリーのはちみつ風味が香るものや、フルーツ入りがよく合います。