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スペインのチーズ

スペインにはおよそ200種類のチーズがあると言われています。

世界を見ると、出所で統計の値と新しさに幅があり目安としてになりますが、年間生産量は、365-400種類のチーズがあるというフランスがおよそ190万トンで世界3位、スペインは20数万トンで約18位、日本は10数万トンで32位あたりに位置します (source atlasbig)。

1人当たりの年間消費量は、フランスが20キロ後半から30キロくらいで1位、スペインは約8キロで、EU平均の約20キロより少なめです。日本は2014年の2.2キロから増えてはいても、2021年は2.7キロですから(農水省)、スペインはその3倍近くのチーズを食べています。

スペインのチーズの歴史

新石器、青銅器、鉄器時代の遺跡の発掘で、多くのチーズ造りの器具が見つかり、羊飼い、農民、庶民が自分で食べる粗野なチーズを作っていたと思われます。中世には、余れば村人や、北西部のサンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂を目指す巡礼者に売りました。1970年代、大手の乳業メーカーが大都市へ供給するため、チーズの工業製品化を進め、村で職人が作る伝統的なチーズとは違う製造・流通が始まりました。チーズの消費は拡大しましたが、模倣品が増えて、土地ごとのチーズの個性は曖昧になりました。重労働で、低収益の羊飼いや農家が仕事をかえ、村のチーズが消えました。2000年頃、国の経済発展で美食のトレンドが大きく変わり、職人製のチーズへの回帰が起こりました。伝統的なチーズを継ぎ、模倣品と区別するために、DOP(原産地名称保護)とIGP(地理的表示保護)制度に力を入れました。2021年末に認証登録がある、202食品目で(ワインなど飲料は別分類)、オリーブオイルの31(15.3%)に次いで、29のチーズは2番目に多く(14.4%)、重要な食文化です。

若い職人たちが途絶えたチーズを復活させ、新しいチーズを生み出しています。地方のチーズのコンテストも盛んです。

スペインのチーズの特徴

原料乳は、牛乳、羊乳、山羊乳があり、他の生産国より、羊乳のチーズが多く、2~3種の混乳のチーズは珍しいです。地形と気候によって、17州の乳種が違います。 羊乳と一言で言っても、羊の種が違えば味わいも違います。羊は原産種のマンチェガ、メリナ、ラチャの他、カステジャーナ、チュラは乳量が多めで、アルカレニャ、カナリア、ギラ、モンテシナ、リポセジャ、タラベラナ、と言う種がいます。

ブルーチーズは、北部沿岸のアストゥリアスとカンタブリアの、自然の洞窟で作られ、場所が明かされていない洞窟もあります。カスティーリャ・イ・レオンと合わせて3州のみです。

腐敗防止のためや、地元食材を活かすため、外皮にオリーブオイルを塗ったもの、パプリカパウダーをまぶしたもの、赤ワインに漬けたり、生地に加えたもの、などのチーズにスペインらしさがあります。

チーズと気候と土地環境
Copyright: Wine Scholar Guild

フランスのナポレオン1世の「ピレネーを超えればアフリカ」、と言う言葉は有名です。フランス革命で、王座と命を奪われたルイ16世も「ヨーロッパと呼んでいいのはピレネー山脈まで」と言ったそうです。確かに標高3,000メートル強のピレネー山脈の南沿いは降水量の少ない山岳地帯で、牛が生息、移動するのも、牛の餌である牧草が生えるのも厳しく、その気候と地形に適合できる山羊や羊が主な家畜になりました。 夏は暑く冬は寒い内陸部の平原は乾燥地帯で、ほとんどの家畜が羊です。

カンタブリア海に面する北部と大西洋にも接する北西部は、降水量が豊富なスペイン最大の牧草地 「緑のスペイン」で、牛の牧畜が可能で、ほとんど牛乳製チーズです。

イスラムの歴史が残したもの

2人のフランス人の言葉の意味は、スペインは711年から1492年まで700年以上、衣、食、建築、医学で、アラブ・イスラム文化の影響を受けたことにもあります。豚肉を食べない生活の糧は、羊料理、羊乳のチーズ、羊毛で、イスラム教徒を追い出したキリスト教徒に引き継がれました。

DOP(原産地名称保護)とIGP(地理的表示保護)

スペインで作られている約200種類のチーズの、26がDOP、3つがIGPです。 

最初の認証登録は、ナバラ州のロンカルで、1981年にスペイン国内のDOを取得、1996年にEUのDOPへ移行しました。1988年の7つから徐々に増え、2000年頃から加速して2005年に24になり、少しずつ増えています。最新では、2020年2月にカスティーリャ・イ・レオン州の羊乳の、Queso Castellano がIGPになりました。現在、エストゥレマドゥラの Queso Acehúche がDOPに申請中です。

29のDOP・IGPチーズは、国内全生産量の一部で、伝統的な製法や規定を厳密に守りオリジナリティがあることを示すものですが、それ以外のチーズにもすばらしいものがあります。

17州のDOP・IGP チーズ

全てのDOPとIGPチーズの写真と生産州が上の図で見られます。番号は下のリストと同じです。17州のうち、アラゴン、バレンシア、マドリッド、アンダルシアの4つの州には、認証登録がありません。2つは2州にまたがり、IGP Queso Los Beyos は、アストゥリアスとカスティーリャ・イ・レオン、DOP Idiazábalは、バスクとナバラ州の両方で作られています。

北西部ガリシア地方は牛乳製チーズの王国で、他の州では羊乳が多く、山羊乳、牛乳との混乳も多いです。

(1) ガリシア:4

① DOP Arzúa-Ulloa 牛乳

② DOP Cebreiro 牛乳

③ DOP Queso Tetilla 牛乳

④ DOP San Simón da Costa 牛乳

(2) アストゥリアス:4+1 

⑤ DOP Afuega´l Pitu 牛乳

⑥ DOP Cabrales 牛、羊、山羊の混乳

⑦ DOP Gamonedo 牛、羊、山羊の2種または3種の混乳

⑧ DOP Queso Casín 牛乳

㉘ IGP Queso Los Beyos (カスティーリャ・イ・   レオンと共通) 牛乳、羊乳、山羊乳、混乳はしない

(3) カンタブリア:3

⑨ DOP Picón-Bejes-Tresviso 牛、羊、山羊の混乳

⑩ DOP Nata de Cantabria 牛乳

⑪ DOP Quesucos de Liébana 牛、羊、山羊の2種または3種の混乳

(4) バスク:0+1

⑫ DOP Idiazábal  (ナバラと共通) 羊乳

(5) ナバラ:1+1

⑬ DOP Roncal 羊乳 

⑫ DOP Idiazábal  (バスクと共通) 羊乳

(6) アラゴン:なし

(7) カスティーリャ・イ・レオン:3+1

⑭ DOP Queso Zamorano 羊乳

㉗ IGP Queso de Valdeón 牛乳と山羊乳の混乳

㉙ IGP Queso Castellano 羊乳

㉘ IGP Queso Los Beyos (アストゥリアスと共通) 牛乳、羊乳、山羊乳、混乳はしない

(8) マドリッド:なし

(9) カタルーニャ:1

⑮ DOP Queso de L´Alt Urgell y la Cerdanya 牛乳

(10) エストゥレマドゥラ:3

⑯ DOP Queso de la Serena 羊乳

⑰ DOP Queso Ibores 山羊乳

⑱ DOP Torta del Casar 羊乳

(11) カスティーリャ・ラマンチャ:1

⑲ DOP Queso Manchego 羊乳

(12) バレンシア:なし

(13) ムルシア:2

⑳ DOP Queso de Murcia 山羊乳

㉑ DOP Queso de Murcia al Vino 山羊乳

(14) バレアレス諸島:1

㉒ DOP Mahón-Menorca 牛乳

(15) カナリア諸島:3

㉓ DOP Queso de Flor de Guía / Queso de Media Flor de Guía / Queso de Guía 牛、羊、山羊の混乳

㉔ DOP Queso Majorero 山羊乳、15%まで羊乳を混乳可

㉕ DOP Queso Palmero / Queso de la Palma 山羊乳

(16) リオハ:1

㉖ DOP Queso Camerano 山羊乳

(17) アンダルシア:なし

チーズを買う

工業製のチーズが多く出回るようになってからは、パックされたチーズをスーパーで買うこともできますが、スペインでチーズを買う良い方法は、メルカド(市場)や、コルマド(古くからある食料品店)、コルテ・イングレスのデパ地下グルメでの、職人製チーズの量り売りです。

スペインの都市では、地区ごとに常設の屋根付き市場があり、市民の台所です。肉、魚、卵まで沢山の専門店が入っていて、野菜や果物はばら売り1個から買えます。チーズ屋もあり、種類を豊富に取り揃えているので、何種類かを買いたいときも、好きな量ずつ切ってもらえます。

この10年ほど、マドリッド、バルセロナをはじめスペイン各地で、古くなった市場が次々リニューアルされて明るくなり、利用客が増えています。おしゃれに生まれ変わった市場内のバルで、チーズとピンチョスをつまんで、スペインワインとビールを飲むのが観光客にも、うけています。

クラシックな店構えのコルマドは、街のあちこちにあります。厳選したワイン、オリーブ、缶詰や瓶詰め、ビスケットやマドレーヌが、ところ狭しと棚に積み上げられていて、白衣の店員さんが取ってくれます。チーズは香り、味の好みでお勧めをしてくれるので、生ハム、総菜と同様、買いたい量を言って買います。

最近、マドリッドやバルセロナでは、パリにあるような、チーズ専門店が増えています。沢山の種類のチーズが積まれたディスプレイが目を引くモダンな店内で、テイスティング・イベントをして、職人の作るチーズを積極的にアピールしています。

チーズの食べ方

スペインの一人当たりのチーズ消費量は、ヨーロッパの中ではそれほど多くないですが、日本よりも手軽にチーズを食べています。ワインやシェリーのタパスとしてや、食事でデザート前に食べます。

ボカディジョ(サンドイッチ)、ブルーチーズのドレッシング、オーブン料理、お菓子にもします。朝食には、フレッシュチーズや薄く三角にスライスした羊乳のチーズを、蜂蜜やジャムと食べます。

スペイン産ナッツはとても上質で、アーモンドやくるみとチーズはよく合い、ヘーゼルナッツ、松の実入りのチーズのお菓子はとても美味しいです。

タイプ別では、熟成させていない、フレッシュチーズが国内の家庭消費の3割以上です。 

DOP・IGPに限っては、羊乳、ハードタイプのマンチェゴが、ユーロ換算の販売額で63%、販売量で53%と突出していますが、76%が輸出なので、スペイン国内の販売量は、生産量がマンチェゴの1/4以下ながら2位につける、単価が安く牛乳の風味が良い、ソフトタイプのアルスアウジョアと大差がありません。

ホテルの朝食のビュッフェで、牛乳よりやや香りの強い羊乳チーズが、生ハムやチョリソ(パプリカ、スパイス入りサラミソーセージ)と一緒に、沢山並んでいるのは驚きです。カリンを砂糖で煮詰めたメンブリージョが添えてあります。旅先の朝食で、地方特産のチーズを食べるのもスペインらしい楽しみ方です。

海外輸出

スペインのチーズの輸出比率は高くありませんが、29のDOPとIGPチーズに限ると、2021年のユーロ換算での輸出の割合は、51.3%で、国内消費を僅かに上回ります。

日本には15種類くらいが少量で輸入されています。専門店で買えるので、カリンを砂糖で煮詰めたメンブリージョも買って、はちみつ、ナッツ、オリーブと一緒に家で楽しんだり、スペインバルやレストランでは、マンチェゴやイディアサバル、ブルーチーズのバルデオンが食べられるので、ぜひスペイン産の赤ワインやシェリーと味わって下さい!