スペインの食卓に欠かせないのが、白いんげん豆、ひよこ豆、レンズ豆、そら豆の煮込みです。涼しい地方で良く食べるのはもちろんですが、スペイン中の家庭、バル、伝統料理のレストランで食べられています。
豆はスペイン国内で栽培されています。ワインやチーズと違い、豆の産地や生産者を気にすることはあまり無いかも知れませんが、産地によって形、色、風味は違います。例えば、レンズ豆の皮の色は褐色、緑褐色、暗緑色、黒褐色があり、皮を剥いたものは黄色、赤橙色があります。
レンズ豆はスペイン語で「レンテハス(lentejas)」と言います。エストファド(estofado)やギソ(guiso)と言う調理法で煮込むことが多く、一般的にはモルシージャ(豚肉の血入りソーセージ)や、チョリソ(豚肉のパプリカパウダーとにんにく入りソーセージ)、ベーコン、野菜を入れます。豚肉、鴨や野生肉、鶏肉が特産の地方であれば、それを入れた郷土料理になりますし、チョリソにはオレガノや他のスパイス入りのもの、にんにく無しのもの、6か月ほど熟成してより旨味の増したものもあり、味わいに幅を与えます。
レンテハスの煮込みは、見た目は地味ですが、他の乾燥豆と違って予め水に浸けておく必要がないので、家庭でも食べたい時にすぐに作れる、なんでも家にある材料で作れる、寒い時に体が温まる、豆の高い栄養が取れる、といいことづくめで、変わらず人気があります。10分煮るだけで食べられる様になり、サラダにしたり、もう少し煮込めばスープができます。
世界のレンズ豆の生産第1位はカナダで、4割近くのシェアを占め多くが輸出されます。第2位のインドはカレー用に、多くが自国で消費されます。第3位はオーストラリアで、大半が輸出向けです。この3か国で世界のレンズ豆の生産の7割近くを占め、食料として以外にも、肥料・家畜の飼料になります。
ヨーロッパでの生産量は限られていますが、フランス人はレンズ豆が大好きで、多くの家庭で常備しています。
スペインのレンテハスの主な産地は、スペイン中心部のカスティーリャ・ラ・マンチャ州と、その北部に広がるカスティーリャ・イ・レオン州で、それぞれ国内生産量の70%、25%程を占めます。
日本では昔から大豆、小豆、いんげん豆、金時豆、そら豆、花豆など、多種の豆を塩味・甘味で食べますが、レンズ豆は生産されておらず、主にアメリカからの輸入です。フランス産、スペイン産のレンテハスも、わずかですが輸入されています。
レンズ豆という名前は、大きさが直径4~8㎜、厚さが2~3㎜で、扁平の形が、ラテン語の「lens(目の水晶体)」の様だから、と言う説があります。日本では「ひらまめ」とも呼ばれています。
メソポタミアの西アジアが原産とされ、徐々に西方のエジプト、ギリシャ、ローマへと伝わったと考えられ、古代ローマ時代から食べられていた記録があります。
スペインでDOPとIGPに認証登録されている豆類は10あります。白いんげん豆に分類されるものが6銘柄(judias、fabas、他)で、その内のカタルーニャ産の2つがDOP、他の産地の4銘柄はIGPです。ひよこ豆とレンテハス(レンズ豆)のそれぞれ2つはIGPです。
レンテハスの2つのIGPは、どちらもスペイン北西部から北部中央に広がる、カスティーリャ・イ・レオン州のものです。
「レンテハス・デ・ラ・アルムーニャ」の生産地は、サラマンカ州の北西部ラ・アルムーニャ地方の38の自治体からなり、統制委員会はサラマンカにあります。
大陸性気候で、真冬は長く−10ºと寒く、夏は非常に短く35ºCになり暑く乾燥しています。標高は平均800~900mで、年間降水量は少なく、水資源は少なくトルメス川のさまざまな支流に流れ込む水路に限られます。土壌は深く肥沃です。種まきは秋の10月頃、収穫は6月末から7月中旬です。
ラ・アルムーニャ産レンテハスは、タンパク質、繊維、鉄分、カルシウムが際立って豊富で、分析された全ての市販品の中で、タンパク質は最も多く、カルシウムは他の品種より50%多いことがわかっており、とても品質が高いです。
食用の乾燥レンテハスは、薄緑色で、少し斑点があり、大きさは直径は5~7mmで中位ですが、最大9mmで他の種類のレンテハスより少し大きいものもあります。「エクストラ」「ファースト」のランクがあります。
表面は滑らかで繊細ですが、調理しても薄い皮は崩れたり溶けたりしないので、透明で風味豊かなスープになります。ほかの食材を加えてさらに調理しても、豆の味わいがしっかり感じられます。食感はきめ細やかで、柔らかい皮はざらつかず良い口当たりです。
IGP 「レンテハス・デ・ラ・アルムーニャ」の公式サイト(スペイン語)に、基本の煮込みのレシピと、郷土料理のバリエーションが紹介されています。
日本には、スペインの美味しいチョリソ、モルシージャ、ハムが沢山輸入されていますので、レシピを参考に、レンテハスの煮込みを作って、スペインらしい味わいをぜひ楽しんで下さい。
<材料(4人分)>
・ アルムーニャ産のレンテハス 300g
・ にんにく 1片
・ 玉ねぎ 1個
・ トマト 1個
・ パン粉 大さじ1
・ オリーブオイル 大さじ6
・ 塩ベーコン 75g
・ チョリソ 75g
・ ハム 75g
・ 塩 適量
・ 胡椒 適量
・ パプリカパウダー 適量
<作り方>
※ 材料はお好みで。じゃがいもも良く合います。
※ 1に、モルシージャ(豚肉の血入りソーセージ)、小麦粉を加えれば、ブルゴス風です。モルシージャは柔らかいので、盛り付ける時に崩れないように気をつけます。
※ 1に、にんにく、酢を加え、揚げたパンのスライスを添えれば、マドリッド風です。本場ではカンデールと言う種類の小麦粉のしっかりした質感の伝統パンを使います。
※ 1に、炒めた玉ねぎ、にんにく、パセリを加えて煮込み、塩・胡椒して、火を止めたら、酢で溶いた生の卵黄を加え余熱で火を入れ、盛り付けます。
※ レンズ豆と肉に、千切りレタス、玉ねぎのみじん切り、クローブ、ハーブを入れて煮込み、ハーブを取り除いてから、大さじ1杯のバターとクリームを加え、揚げたクルトンを添えれば、フランス風です。
※ ベーコン、人参、玉ねぎ、にんにく、ブーケガルニ(タイム、セロリ、ローリエ、パセリなどの小枝)を煮ます。水分を切り、ブルゴーニュ・ワインを加えて沸騰させれば、フランスのブルゴーニュ風です。
※ ベジタリアンなら、レンズ豆と人参、玉ねぎ、にんにく、蕪、ピーマン、セロリなどを、炒めずに生から煮ます。
「レンテハス・デ・ティエラ・デ・カンポス」の生産地域は、カスティーリャ・イ・レオン州の北西4つの県、レオン、パレンシア、バリャドリッド、サモラで、統制委員会はバリャドリッドにあります。
平均標高850mのなだらかな平野です。気候は乾燥または半乾燥で、平均最低気温は -9ºC、平均最高気温は 18.6ºCです。鳩や小さな狩猟動物が多く生息しています。
食用の乾燥レンテハスは、皮の色は緑がかった茶色で、一部または全体に黒い斑点があります。商品名はpardina(パルディナ)で、「エクストラ」にランクされます。直径3.5~4.5 mmと小さく、水に浸さず短時間で調理できます。調理しても皮が失われず、繊細な口当たりで、サラダには最適です。中身は柔らかく適度にクリーミーで、少し渋みがあります。タンパク質と繊維質が豊富です。調理済みの缶詰レンテハスもIGPで厳しく管理されています。
日本のスペインレストランでも、ぜひレンテハスを味わって下さい。