スペイン北部に位置するアストゥリアス地方は、雄大な自然、独特の文化、そして豊かなグルメで知られています。この地方を訪れると、まず目にするのが、アストゥリアスのシンボルとも言えるシドラ(リンゴ酒)や、アストゥリアス産のチーズ、ボリューム満点のファバーダ・アストゥリアナ(白インゲン豆の煮込み料理)、そして夏を彩る「プラオ祭り」です。本記事では、アストゥリアスの美食文化と、この地方ならではの伝統的な祭りを詳しくご紹介します。
アストゥリアスはスペインのカンタブリア山脈とビスケー湾に挟まれた、自然豊かな地方です。この地域は、緑豊かな山々、荒々しい海岸線、そして肥沃な農地に囲まれており、昔から農業や畜産が発展してきました。その結果、質の高い食材と、それらを活かした伝統的な料理が豊富に生まれました。特に、アストゥリアスは「シドラの国」として知られ、シドラを中心とした食文化は、観光客にも大人気です。
アストゥリアスを訪れる際、最初に味わってほしいのがシドラです。リンゴを発酵させて作られるこの伝統的な飲み物は、アルコール度数が低く、爽やかでフルーティーな味わいが特徴です。シドラは地元のリンゴを使って作られ、その製法は古くからの伝統を守り続けています。
特に、シドラの「エスカンシアール」という注ぎ方は、アストゥリアスならではの文化です。エスカンシアールでは、ボトルを頭上に高く掲げ、シドラをグラスに注ぎます。この技術によってシドラが空気を含み、豊かな香りと泡立ちが引き出されます。地元の「シドラリーア(sidrería)」というバーでは、この独特なパフォーマンスを観客に披露しながら、シドラを提供しています。
アストゥリアスは、シドラだけでなく、さまざまな種類のチーズでも有名です。この地方のチーズは、多様な風味と製法で知られており、特に「カブラレス(Cabrales)」チーズはスペイン国内外で高く評価されています。カブラレスは、青カビが特徴のブルーチーズで、ピリッとした濃厚な味わいが魅力です。洞窟内で熟成されるこのチーズは、特にシドラとの相性が抜群です。
他にも、クリーミーな「アフエガル・ピトゥ」や、「ゴルドンチョ」といった、地域ごとに個性豊かなチーズがあります。これらのチーズは、シドラと共に楽しむだけでなく、アストゥリアス料理の多くにも使用され、地元の食文化をより深く味わうことができます。
アストゥリアスの代表的な料理といえば、「ファバーダ・アストゥリアナ(Fabada Asturiana)」です。この料理は、白インゲン豆(フェイジョン)を使い、豚肉やチョリソ、モルシージャ(血のソーセージ)と一緒に煮込んだボリューム満点の煮込み料理です。寒い日には体を温めるために最適で、その濃厚で深い味わいが地元の人々に愛されています。
ファバーダは、主に昼食として食べられ、家族や友人と一緒に楽しむ伝統的な料理です。また、シドラや赤ワインと一緒に食べることで、さらにその味わいが引き立ちます。この料理はアストゥリアスの文化を代表する一品であり、訪れた際にはぜひ味わいたい一皿です。
「プラオ祭り(fiestas de prao)」はアストゥリアス地方の夏の風物詩です。「プラオ」はアストゥリアス方言で「草原」を意味し、広場や草地で開かれる屋外イベントです。音楽や伝統舞踊を楽しみながら、地元の料理やシドラを味わえるのが魅力です。特に夏の間、各地で行われるこの祭りは、地域によって独自のスタイルがあり、観光客にも人気です。
アストゥリアスは、独自の歴史を持つ地域で、中世のプレロマネスク様式の建築物が残るエリアでもあります。「サンタ・マリア・デル・ナランコ」はその代表的な建物で、9世紀に建てられ、ユネスコ世界遺産にも登録されています。元々は宮殿として建てられましたが、後に教会として利用されるようになったこの建物は、スペイン初期の建築様式を知る貴重な遺産です。
アストゥリアスは、スペインの歴史において非常に重要な役割を果たしました。8世紀にアストゥリアス王国が成立し、「コバドンガの戦い」がレコンキスタ(再征服運動)の始まりとされています。この戦いに勝利したペラーヨ王がアストゥリアス王国を築き、キリスト教徒による抵抗が本格化しました。「コバドンガ」は現在もアストゥリアスの観光名所で、多くの訪問者がその歴史的意義に触れるために訪れています。
アストゥリアス地方は、スペインの中でも独自の食文化と歴史が深く根付いた場所です。シドラ、チーズ、ファバーダの美食三昧だけでなく、プラオ祭りや歴史的な建築物、そして豊かな自然と共に育まれた文化を体験することができます。アストゥリアスは、スペインを訪れる際に見逃せない魅力的なスポットです。