Autor: Erika Nakaoji

ソパ・デ・アホ:スペインのにんにくとスープ

スペインで街を歩くと、あちこちからにんにくとオリーブオイルの食欲をそそるなんともいいにおいが漂って来ます。にんにくは潰したり、薄切りやみじん切りにして、オリーブオイルに香りを付けたり、炒めたり、煮込んだりして、スペイン料理に最も多く使う香味野菜です。

スペイン語でにんにくはアホ(ajo)と言います。 これまでにご紹介した、アヒージョ(ajillo)パン・コン・トマテガスパチョはにんにくを使った代表的な料理です。パエリャには、まずオリーブオイルを熱して香り付けに使ってから、そのまま他の材料と一緒に調理され食べますし、イカ墨のパエリャや極細パスタのフィデウアのパエリャなら、マヨネーズに似たにんにく風味のアリオリソースとして添えて食べます。

スープや煮込みが美味しくなる寒い季節には、スペイン伝統のメニューが豊富にありますが、その多くににんにくが入っています。暑い季節なら、冷たいにんにくのスープのアホ・ブランコが、トマトのガスパチョと並んで人気があります。

そんな訳ですから、スペイン人の家のキッチンには、数個単位のネット入りや、紐の数珠つなぎで買ってきたままのにんにくが吊るしてあったり、バスケットに積んであったり、素焼きで蓋つきの壷に入れてあったり、どの家でもにんにくを欠かさないようにしています。スペインバルやレストランだけではなく、アパートの建物に入った途端、いつでもにんにくとオリーブオイルのにおいがして、それはもう染み付いていると言う感じです。

スペインでは、生のにんにくのほか、セミドライやドライのもの、加工品は、乾燥にんにくや、スパイス・製薬用のパウダー、オリーブオイルやピクルス液に漬けたものも売っています。にんにくを発酵させた黒にんにくもあり、料理に使うほか、ややドライフルーツのような味わいを活かして、ビスケットなどのお菓子に混ぜて焼いたり、パンと一緒にそのまま食べたりします。

ソパ・デ・アホ (にんにくのスープ)

スペインに数あるスープの中で、ソパ・デ・アホは、最もシンプルな伝統料理です。古くは、硬くなったパン、にんにく、オリーブオイルを、水で煮ただけでできる、安上がりで栄養価が高い、庶民が厳しい冬を生きる糧でしたが、19~20世紀には都会で夜遊びのあとに、ブイヨンスープで煮て、卵や生ハムを入れたものが食べられていた記述があります。古風なスープのレシピが、今も多くの料理本に受け継がれています。

ソパ・デ・アホは、中央部カスティーリャ高原、北東部アラゴンの一部、南部のアンダルシアと南西部エストレマドゥーラの典型的なスープですが、レンテハス(レンズ豆)の煮込みと同じように、スペイン中にその土地の食材を加えたヴァリエーションがあります。タラを入れたバスク風、きゃべつ、長ねぎ、トマト、パセリ、ピーマンなどの野菜を入れたマジョルカ風、きのことクミンを入れたソリア風、トマトと胡椒を入れたリオハ風・・・。 他にもまだまだあります。

基本のソパ・デ・アホは、とても簡単に美味しく作れます。日本でも、タパスバルやスペイン料理レストランで食べられますので、これからの寒い季節に、あつあつのソパ・デ・アホを、スペインワインと合わせて楽しんでください。

ソパ・デ・アホの基本のレシピ

<材料(4人分)>

・ にんにく                        3片

・ E.V.オリーブオイル                 大さじ 3

・ バゲットなどのパン(硬くなったもの)          8切れ(1㎝厚さ)

・ パプリカ・パウダー(甘口)               小さじ2

・ 水                           600~800ml

・ 卵                           4個

・ 塩・胡椒                        適量

<作り方>

  1. 鍋にオリーブオイル、スライスしたにんにくを入れて、弱火で炒めます。
  2. にんにくから香りが出て、少し焼き色がついたら、パンを入れ、裏返し両面に油を染み込ませ、色をつけます。にんにくを焦がさないように気をつけます。
  3. 一度火から下ろして、パプリカ・パウダーを加え、焦がさないように、手早く全体を混ぜ合わせます。
  4. 水を加え中火にかけ、パンを少し崩すようにして、10分ほど煮ます。
  5. 塩・胡椒で味を調えます。
  6. 卵を割り入れ、火を止め、余熱で半熟状になるように火を入れ、卵をくずさないように器に盛り付けます。

※ パプリカ・パウダーは焦げやすいので、火を止めて加えます。

※ 水に替えて野菜や肉類からとったスープや、分量の水に固形ブイヨン1個を加えて煮ると、旨味が増します。

※ 生ハムの切り落とし(40~80g)を刻んで加えれば、ソパ・カスティリャ-ナ(Sopa Castillana)と呼ばれる、少し贅沢なスープになります。3.のパプリカ・パウダーを加えるタイミングで入れます。

※ スペインでは卵は溶かずに加え、崩しながら食べますが、溶き卵を入れても良いでしょう。

※ パンは通常は前日から残ったフランスパンを使いますが、食パンなどを、4等分くらいに適当な大きさに切って入れても作れます。

※ パンをオリーブオイル、にんにくと一緒に炒めずに、トースターでカリッと焼いて、皿に入れ、スープを注ぎ入れても、違った味わいが楽しめます。

※ パプリカ・パウダーは甘口のかわりに、辛口を入れることもできます。

※ シェリー酒を少し加えればさらに風味が増します。

にんにくの産地

世界のにんにく生産は、中国が75%近く、続くインドが9~10%で、この2国が85%近くを占めます。それ以下の生産国は僅かずつですが、スペインは6位くらいで、日本の37位くらいよりもずっと上で、EUでは最大のにんにく生産国です。

 スペイン産にんにくは、生産量は世界の1%に満たないものの、輸出量は中国に次ぐ第2位です(8割近くが輸出向け)。日本の生鮮にんにくのおよそ半分以上は輸入品ですが、輸入の90%以上を占める中国産に次いで、スペイン産が第2位で、2021年は約9%でした。つまり日本で流通する生のにんにくの3-5%がスペイン産と言う事になります。

モラード種(紫にんにく)は、一般的な白いにんにくとの違いが目立ちやすいことや、スペインのブランドにんにくのイメージを世界に広める積極的なプロモーションの効果で人気が高まり、2015年に日本でアメリカを逆転して2位になることに貢献した品種で、さらなる伸びが期待されます。

概して、中国産は日本産に比べ、1個も皮の中の粒も小さ目ですが、日本での価格は1/3から1/10程度なので、風味付けや、調味料として気軽に使えます。スペイン産のにんにくは、日本で最も生産量が多く、品質の評判も高い青森産の、丸く大粒で、みずみずしく、フレッシュな果実のようなにんにくと比べても、それほど変わらない大きさで、香り、味、質感も良く、価格では1/3程度でお得感もあります。

スペインのにんにくの産地

スペインのにんにくの生産は、特に中央部から南部で盛んで、中央部からやや南のカスティーリャ・ラ・マンチャ州で全体の半分以上、南のアンダルシア州で1/4程度を生産しています。

カスティーリャ・ラ・マンチャ州クエンカ県のラス・ペドロニェラスには、スペインのにんにくで唯一のIGP(地理的表示保護)に認証登録されたモラード種(紫にんにく)のIGP Ajo Morado de Las Pedroñeras があります。

アンダルシア州は、コルドバ県の生産量が多いですが、1990年代からの比較的新しい大規模農家によるものです。

スペインのにんにくの品種

スペインでは、主に4種類のにんにくが生産されています。

① ホワイト・スプリング種

中国原産で、栽培しやすく収量が多い品種です。​​サイズが大きく、丸みを帯びた平らな形で、外皮と内皮が白く、10-12粒の果肉は白です。まろやかな味わいです。

② バイオレット・スプリング種

中国原産で、栽培しやすく一部の地域で生産されています。外皮は白に紫の筋が少しまたは多く入っていて、10-12粒です。

③ ホワイト種

スペインのいくつかの地域の伝統的な品種です。サイズが大きく、白い外皮で、10-12粒の果肉はクリーム色です。なめらかな味わいです。その乾燥にんにくパウダーはヨーロッパで広く使われています。

④ モラード種 (紫にんにく)

主にカスティーリャ・ラ・マンチャ州のクエンカ県で生産される、偉大な伝統を持つ土着の品種です。球状で、大きさは中程度で揃っていて美しいです。外皮は白ですが、皮を剥くと現れる紫色の薄い皮の粒が一番の特徴で、8-10粒の果肉はクリーム色です。

ラス・ペドロニェラスという小さな町とその周辺の地区で生産されているものは、2001年にIGP(地理的表示保護)「ラス・ペドロニェラス モラード種(Ajo Morado de Las Pedroñeras)」として認証登録され、ロゴマークが付けられています。

45mm以上のExtraと、41mm以上のLサイズがあります。アリシンの含有量が多いため、強い香りとスパイシーで刺激的な味が特徴です。「ラス・ペドロニェラスの紫にんにく」 1片で他の品種の2~3倍の風味が楽しめると言われ、高品質なにんにくとして海外でも知名度が上がっています。作付け面積当たりの収量は劣るため、1990年代半ばには生産量が大きく落ち込みましたが、最近は海外でのブランド化の努力などにより、再び増えています。

レンテハス:スペインのレンズ豆

スペインの食卓に欠かせないのが、白いんげん豆、ひよこ豆、レンズ豆、そら豆の煮込みです。涼しい地方で良く食べるのはもちろんですが、スペイン中の家庭、バル、伝統料理のレストランで食べられています。

豆はスペイン国内で栽培されています。ワインやチーズと違い、豆の産地や生産者を気にすることはあまり無いかも知れませんが、産地によって形、色、風味は違います。例えば、レンズ豆の皮の色は褐色、緑褐色、暗緑色、黒褐色があり、皮を剥いたものは黄色、赤橙色があります。

レンズ豆はスペイン語で「レンテハス(lentejas)」と言います。エストファド(estofado)やギソ(guiso)と言う調理法で煮込むことが多く、一般的にはモルシージャ(豚肉の血入りソーセージ)や、チョリソ(豚肉のパプリカパウダーとにんにく入りソーセージ)、ベーコン、野菜を入れます。豚肉、鴨や野生肉、鶏肉が特産の地方であれば、それを入れた郷土料理になりますし、チョリソにはオレガノや他のスパイス入りのもの、にんにく無しのもの、6か月ほど熟成してより旨味の増したものもあり、味わいに幅を与えます。

レンテハスの煮込みは、見た目は地味ですが、他の乾燥豆と違って予め水に浸けておく必要がないので、家庭でも食べたい時にすぐに作れる、なんでも家にある材料で作れる、寒い時に体が温まる、豆の高い栄養が取れる、といいことづくめで、変わらず人気があります。10分煮るだけで食べられる様になり、サラダにしたり、もう少し煮込めばスープができます。

レンズ豆の産地

世界のレンズ豆の生産第1位はカナダで、4割近くのシェアを占め多くが輸出されます。第2位のインドはカレー用に、多くが自国で消費されます。第3位はオーストラリアで、大半が輸出向けです。この3か国で世界のレンズ豆の生産の7割近くを占め、食料として以外にも、肥料・家畜の飼料になります。

ヨーロッパでの生産量は限られていますが、フランス人はレンズ豆が大好きで、多くの家庭で常備しています。

スペインのレンテハスの主な産地は、スペイン中心部のカスティーリャ・ラ・マンチャ州と、その北部に広がるカスティーリャ・イ・レオン州で、それぞれ国内生産量の70%、25%程を占めます。

日本では昔から大豆、小豆、いんげん豆、金時豆、そら豆、花豆など、多種の豆を塩味・甘味で食べますが、レンズ豆は生産されておらず、主にアメリカからの輸入です。フランス産、スペイン産のレンテハスも、わずかですが輸入されています。

レンズ豆の語源

レンズ豆という名前は、大きさが直径4~8㎜、厚さが2~3㎜で、扁平の形が、ラテン語の「lens(目の水晶体)」の様だから、と言う説があります。日本では「ひらまめ」とも呼ばれています。

メソポタミアの西アジアが原産とされ、徐々に西方のエジプト、ギリシャ、ローマへと伝わったと考えられ、古代ローマ時代から食べられていた記録があります。

DOP(原産地名称保護) とIGP(地理的表示保護)

スペインでDOPとIGPに認証登録されている豆類は10あります。白いんげん豆に分類されるものが6銘柄(judias、fabas、他)で、その内のカタルーニャ産の2つがDOP、他の産地の4銘柄はIGPです。ひよこ豆とレンテハス(レンズ豆)のそれぞれ2つはIGPです。

レンテハスの2つのIGPは、どちらもスペイン北西部から北部中央に広がる、カスティーリャ・イ・レオン州のものです。

IGP Lenteja de La Armuña 「レンテハス・デ・ラ・アルムーニャ」

「レンテハス・デ・ラ・アルムーニャ」の生産地は、サラマンカ州の北西部ラ・アルムーニャ地方の38の自治体からなり、統制委員会はサラマンカにあります。

大陸性気候で、真冬は長く−10ºと寒く、夏は非常に短く35ºCになり暑く乾燥しています。標高は平均800~900mで、年間降水量は少なく、水資源は少なくトルメス川のさまざまな支流に流れ込む水路に限られます。土壌は深く肥沃です。種まきは秋の10月頃、収穫は6月末から7月中旬です。

栄養価と品質

ラ・アルムーニャ産レンテハスは、タンパク質、繊維、鉄分、カルシウムが際立って豊富で、分析された全ての市販品の中で、タンパク質は最も多く、カルシウムは他の品種より50%多いことがわかっており、とても品質が高いです。

食用の乾燥レンテハスは、薄緑色で、少し斑点があり、大きさは直径は5~7mmで中位ですが、最大9mmで他の種類のレンテハスより少し大きいものもあります。「エクストラ」「ファースト」のランクがあります。

表面は滑らかで繊細ですが、調理しても薄い皮は崩れたり溶けたりしないので、透明で風味豊かなスープになります。ほかの食材を加えてさらに調理しても、豆の味わいがしっかり感じられます。食感はきめ細やかで、柔らかい皮はざらつかず良い口当たりです。

IGP 「レンテハス・デ・ラ・アルムーニャ」の公式サイト(スペイン語)に、基本の煮込みのレシピと、郷土料理のバリエーションが紹介されています。

日本には、スペインの美味しいチョリソ、モルシージャ、ハムが沢山輸入されていますので、レシピを参考に、レンテハスの煮込みを作って、スペインらしい味わいをぜひ楽しんで下さい。

レンズ豆の煮込み

<材料(4人分)>

・ アルムーニャ産のレンテハス               300g

・ にんにく                        1片

・ 玉ねぎ                         1個

・ トマト                         1個

・ パン粉                         大さじ1

・ オリーブオイル                     大さじ6

・ 塩ベーコン                       75g

・ チョリソ                        75g

・ ハム                          75g

・ 塩                           適量

・ 胡椒                          適量

・ パプリカパウダー                    適量

<作り方>

  1. レンテハスを洗い、適当な厚さに切ったベーコン、チョリソ、ハムと鍋に入れ、材料が被るくらいの水で、20分煮ます。
  2. みじん切りにしたにんにくと玉ねぎをオリーブオイルで炒め、透明になったら、トマト、パン粉、パプリカパウダーを加えて炒めます。
  3. レンテハスと肉の鍋に加えて混ぜ、更に10分ほど煮ます。
  4. 調理の最後に塩・胡椒で味付けし、時々鍋を動かして、味、旨味、濃度が均一になるようにします。
  5. 全て一緒に盛り付けます。

※ 材料はお好みで。じゃがいもも良く合います。

※ 1に、モルシージャ(豚肉の血入りソーセージ)、小麦粉を加えれば、ブルゴス風です。モルシージャは柔らかいので、盛り付ける時に崩れないように気をつけます。

※ 1に、にんにく、酢を加え、揚げたパンのスライスを添えれば、マドリッド風です。本場ではカンデールと言う種類の小麦粉のしっかりした質感の伝統パンを使います。

※ 1に、炒めた玉ねぎ、にんにく、パセリを加えて煮込み、塩・胡椒して、火を止めたら、酢で溶いた生の卵黄を加え余熱で火を入れ、盛り付けます。

※ レンズ豆と肉に、千切りレタス、玉ねぎのみじん切り、クローブ、ハーブを入れて煮込み、ハーブを取り除いてから、大さじ1杯のバターとクリームを加え、揚げたクルトンを添えれば、フランス風です。

※ ベーコン、人参、玉ねぎ、にんにく、ブーケガルニ(タイム、セロリ、ローリエ、パセリなどの小枝)を煮ます。水分を切り、ブルゴーニュ・ワインを加えて沸騰させれば、フランスのブルゴーニュ風です。

※ ベジタリアンなら、レンズ豆と人参、玉ねぎ、にんにく、蕪、ピーマン、セロリなどを、炒めずに生から煮ます。

I.G.P. Lenteja de Tierra de Campos 「レンテハス・デ・ティエラ・デ・カンポス」

「レンテハス・デ・ティエラ・デ・カンポス」の生産地域は、カスティーリャ・イ・レオン州の北西4つの県、レオン、パレンシア、バリャドリッド、サモラで、統制委員会はバリャドリッドにあります。

 平均標高850mのなだらかな平野です。気候は乾燥または半乾燥で、平均最低気温は -9ºC、平均最高気温は 18.6ºCです。鳩や小さな狩猟動物が多く生息しています。

画像 Lenteja de Tierra de Campos 

食用の乾燥レンテハスは、皮の色は緑がかった茶色で、一部または全体に黒い斑点があります。商品名はpardina(パルディナ)で、「エクストラ」にランクされます。直径3.5~4.5 mmと小さく、水に浸さず短時間で調理できます。調理しても皮が失われず、繊細な口当たりで、サラダには最適です。中身は柔らかく適度にクリーミーで、少し渋みがあります。タンパク質と繊維質が豊富です。調理済みの缶詰レンテハスもIGPで厳しく管理されています。

日本のスペインレストランでも、ぜひレンテハスを味わって下さい。

アヒージョ:スペインのにんにく風味タパス

アヒージョは、 具材をオリーブオイル、にんにく、赤唐辛子と一緒にふつふつと煮てその風味をつけた伝統料理で、スペインバルやスペイン料理のレストランの定番メニューです。日本では海老やマッシュルームのアヒージョが最もポピュラーですが、スペインでは鶏肉、うさぎ肉も人気です。 スペインのにんにくも、スペインのオリーブオイルも、質、量、ともに世界に誇る農産物ですから、シンプルでありながら、最高の一品になります。

ほかにもスペイン各地方の特産品や旬の食材のアヒージョがあり、たとえば、貝、蛸、魚の稚魚、白身魚、野菜、きのこ、アスパラガスなどです。肉や魚は仕上げに白ワインやヴィネガーで煮込むものもあり、シェリー酒であれば、スペインならではの風味が香る一皿です。

スペイン語でにんにくはajo(アホ)です。 al ajilloで調理法がにんにくの風味をつけたものであることを表します。 スペインでは 「食材名+アル アヒージョ」 が正式な料理名で、海老なら gambas al ajillo、マッシュルームならchampiniones al ajillo となります。

本場のタパスバルや気軽なスペインレストランでは、直径12㎝くらいの casuela (カスエラ)と言う陶器の皿を、直火にかけてぐつぐつと煮たものが、熱々でテーブルに運ばれて来ます。

タパスバルでは小皿料理ですが、レストランでは鶏肉やうさぎ肉をお皿に盛り付けて、メイン料理として供されることもあります。

画像:うさぎ肉のアヒージョ

作り方はとても簡単で、スペインでは自分の家で料理するのも一般的です。 陶器のカスエラがなくても、厚い鉄の小さなフライパン(スキレットや南部鉄器など)、ホーローのココット、その他の直火対応の耐熱容器で代用できます。海老の殻向きや背ワタを取るのが大変という方には、冷凍海老でも美味しくできます。 缶詰や、スペインバルやデリの調理済み真空パックを買ってきて、容器に移して火にかけたり、湯煎にして温めるだけでも、手軽にアヒージョが食べられ、アウトドアでも大いに活躍します。

日本でも、すっかりおなじみになり、多くのタパスバルやスペイン料理レストランで楽しめます。

日本でピンチョスを拡め、CEJでもご紹介しているL’ESTUDI レ・ストゥディ、BIKINIチェーン店のBIKINI MEDIBIKINI PICARBIKINI 赤坂のジョゼップ・バラオナさんは、著書 『アヒージョ! ajillo!』 (柴田書店)で、アヒージョ風味に合いそう、とイメージできる食材であればなんでもつかえる、と書いています。和食材や創作的なものも含めて、なんと60近いバリエーションのレシピを紹介しています。

バゲットなどのパンや、薄くスライスしてトーストしたパンに、具材をスプーンですくって載せて食べるのがスペイン流です。お皿に残った、にんにくと赤唐辛子と具材の旨味がしっかりと染み込んだオリーブオイルは、パンを浸してきれいに食べるも良し、茹で野菜やサラダや魚のカルパッチョ、パスタや、炊いた白いご飯にかけても相性抜群です。 最後まで余すところなくいただきます。

アヒージョは冷めても美味しく、余ったら翌日のサラダに加えたり、ピンチョスや冷たい前菜としていただけます。

アヒージョの楽しみ方は無限大です。 これからの寒い季節に、あつあつのアヒージョをスペインワインと合わせて楽しんでください。 CEJのホームページには、国内のスペイン料理レストランやバルのリストがありますので、ぜひそれぞれのお店のアヒージョを食べ比べてみてください。

海老のアヒージョの作り方

<材料(タパスサイズの小皿1つ分)>

・ オリーブオイル               40ml

・ にんにく                  1片(小2片)

・ 赤唐辛子・鷹の爪              1本(小2本)

・ 甘海老                   60~80g(8尾程)

・ 塩                     適量

・ イタリアンパセリ(葉を刻む)

・ バゲットなどのパン

<作り方>

  1. 甘海老の頭を外し、殻を剥き、背わたを楊枝などで取り除きます。
  2. カスエラまたは鍋に、オリーブオイル、にんにくを入れて弱火にかけます。
  3. 15秒程で、にんにくがプチプチ言い始めたら、弱火のまま、赤唐辛子を入れます。
  4. 約1分後、にんにくがきつね色になったら、海老(または他の具材)を入れます。
  5. 一旦温度が下がるので、火力を少し強め、軽く塩をふり、オイルがふつふつと泡立っている状態を保ちながら、さっと煮ます。
  6. 火からはずして、フレーク状の塩と、刻んだパセリを振りかけます。器が熱くなっているので、火傷しないように気をつけましょう。

※ オリーブオイルは、香りがニュートラルな普通の(ピュアな)ものを使います。

※ 「にんにくのオイル風味」 を最大限にするために、にんにくをじっくりと過熱することが決め手です。すぐに焦げてしまわないように、少し厚めにスライスします。芯は取り除きます。 鶏肉やうさぎ肉など、白ワインで少し長めに蒸し煮にするものでは、にんにくはつぶしてもOKで、ホクホクした食感を楽しめます。みじん切りは風味をより感じることができますが、焦げやすいので注意してください。

※ 赤唐辛子は4等分にすれば、オイルにより均等に味が付きます。

※ 加熱に時間がかかる具材は、予め茹でたり、ソテーしたり下ごしらえをしてから、アヒージョにします。ソテーしてフライパンに出た焼き汁も、アヒージョに入れて旨味を全て活かします。

※ オイルの量は、具材が軽く浸る程度で、調理の器により加減します。

※ 火の通りがムラにならないように、大きな具材はカスエラの中で一つ一つ裏返し、小さな具材はよく混ぜます。 

※ オイルは常にふつふつと泡立つ状態に保ちます。

※ 火の入りやすい魚介類などは、30秒から1分の短時間で、熱と香りが全体にからむように、火からはずします。

 

マンチェゴとメンブリージョとスペインワイン

スペインには200種類ほどのチーズがあると言われ、日本には15種類程が輸入されています。

生産量、国内消費、輸出で、スペイン代表は、ケソ・マンチェゴです。スペインの中央部、17州で3番目に広い、大陸性気候のカスティーリャ・ラ・マンチャ地方のラ・マンチャで、マンチェガ種の羊乳から作られるチーズです。土地、羊、チーズの名前が同じです。12~16世紀に繁栄した羊毛産業は化学繊維へ移りましたが、食用、乳業、乳製品として牧羊の価値を保って来ました。

職人の手作りするマンチェゴは無殺菌乳、工場制のものは低温殺菌乳から作られます。円筒形のチーズの側面には、網目の模様が付いています。昔はエスパルトという茅(かや)で編んだ帯で巻いて成形したためで、今はプラスチックの型に変わりましたが、型の内側に施された網目で、オリジナルと同じ模様を付けています。上下面にも模様があります。

ロゴマーク

マンチェゴは、DOP(原産地名称保護)に登録されており、ラベルのモチーフは小説「ドン・キホーテ」の主人公です。スペインの偉大な作家、セルバンテスが、17世紀初めに書いたこの小説の舞台は、カスティーリャ・ラ・マンチャ地方、点々と風車がある乾燥したメセタ(平原)です。妄想で騎士になりきった主人公が、珍道中にマンチェゴを携え食べる様子が描かれており、古くから良く食べられていた事がわかります。ミュージカルにもなり、題名は「ラ・マンチャの男」です。

真正のケソ・マンチェゴ

DOP(原産地名称保護)の規定と特徴は、以下の通りです。

マンチェガ種の羊の乳で作られた圧搾チーズ(プレスして水分を分離する)で、熟成期間は、重量が 1.5 Kg 以下のものは 最低 30 日、1.5 Kg を超えるものは60 日から最長 2 年です。

形はほぼ平らな面を持つ円筒形で、高さは最大12 cm で、直径は最大22cmです。重量は 0.4 ~ 4 Kg。外皮の中身は固く詰まっており、目が小さく不均一に分布しているものがあります。色は熟成期間により、白から黄色がかったアイボリーまで、さまざまです。

はっきりとした乳酸の香りが感じられ持続して、長期熟成するほどスパイシーなニュアンスになります。風味は酸味が強く、香り同様、熟成度の高いチーズではスパイシーになります。マンチェガ種の羊のミルク特有の、心地よい余韻が続きます。弾力性が低く、バターのような感じとやや粉っぽさがあり、長熟したものはアミノ酸が粒状になります。

地理的エリア

アルバセテ、シウダ・レアル、クエンカ、トレドの4県からなるラ・マンチャ内で、乳の生産、チーズの生産と熟成が行われなくてはなりません。小分けにカット、スライス、またはすりおろしても、包装されその由来がわかる限り、「ケソ・マンチェゴ」として販売することができます。この加工作業は「マンチェゴ」のトレーサビリティと管理全般を保証するために確立された、規定に準拠する企業によって行われ、原産地外ですることも許されます。

ラベリング

真正のマンチェゴには原産地名称保護のラベルが付され、生乳で作られている場合は職人製を表す「アルテサノ」と記載されます。統制委員会が番号付きラベルを発行します。個々のマンチェゴに、成形と圧搾する段階で、片面に番号とシリアル番号の記されたカゼインプレートという印が付けられます。

THE CHEESE ROOMチーズプラトー講座
「チーズアートで伝えるケソ・マンチェゴの魅力♪」にて撮影
熟成の違い

一般的にチーズは異なる熟成期間で作られます。7日の熟成はtierno(ティエルノ)またはfresco(フレスコ)、3か月はsemicurado(セミクラド)、4~7か月はcurado(クラド)、7~9か月、1年、2年など長期熟成したものがmuy curado (ムイクラド)やviejo(ビエホ)と言う具合です。

マンチェゴの熟成期間は、以前に比べやや短めが推奨されます。30日から2年までで、若い時の色は白っぽく、質感はしっとりとして、羊乳のほのかな甘い香りと味わいがします。熟成が進むにつれ、色は少しずつアイボリーへと濃くなり、水分が減ってナッツの様な香り、ミルクの甘みと同時にコクのある味わいになります。2年熟成では、アミノ酸が結晶化して、じゃりっとした食感に、塩味、旨味が凝縮しています。

画像 THE CHEESE ROOM
マンチェガ羊の食べるもの

ラ・マンチャはアラビア語で、水のない土地・高原を意味するそうです。植生は粗く、一年を通じて放牧される羊は、雑木林、穀物畑の刈株、ぶどう畑の草などを食べます。DOP登録に、羊の餌になる植物、それを食べた羊のミルクの味わいとケソ・マンチェゴの風味の特徴が記されています。

ワインと楽しむ

カスティーリャ・ラ・マンチャ地方は、スペインのぶどう栽培面積の約半分を占める最大のワインの産地です。DOラ・マンチャと、その南に隣接するDOヴァルデペニャスは、スペインで最初のDOを1932年に取得したエリアで、従来のテーブルワインから高品質なものへ変化しています。さらに、ラ・マンチャ周辺地域には新潮流があります。単一の優れた畑のワイナリーに付されるVino de Pagos (ヴィノデパゴス、VP)というカテゴリーが、VP Dominio de ValdepusaのMarqués de GriñónやVP Finca Élez を皮切りに増え、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニョンなどの国際品種ぶどうのワインが注目を集めています。

若いマンチェゴは、ほのかな酸味が残り、軽めの白ワインと相性が良く、最も多く栽培されている白ぶどう、アイレンのカジュアルなワインや、南部アンダルシア地方のシェリーの、ドライなフィノやマンサニージャなどがよく合います。羊のミルクのほんのりした甘みには、フルーティーな白ワインが口当たり良く楽しめます。赤ワインでは、DOヴァルデペニャスのcencibel(センシベル、テンプラニーリョのこの地方での名)が、テンプラニーリョのワインの中では軽めでぴったりです。

熟成が長いマンチェゴは、しっかり目で複雑なワインとバランスが取れます。例えば、センシベル品種の赤ワインの少し熟成したもの、DOリオハやDOリベラ・デル・ドゥエロのテンプラニーリョの樽熟成、よりボディのあるものです。ラ・マンチャとバレンシア州の間の、DO Manchuela(マンチュエラ)はBobal(ボバル)から土着品種らしい野性味が魅力のワインを造っていて、それを合わせれば上級者!シェリーは、酸化熟成タイプでボリューム感のある、オロロソやアモンティリャードがナッツの香りで同調します。Vino de Pagosのシャルドネやカベルネ・ソーヴィニョンのワインとのペアリングも試してみてください。

3年前の日本のソムリエ認定試験に出題されるなど、今やグルメの世界で知られるマンチェゴの楽しみ方はいろいろです。

画像 THE CHEESE ROOM
チーズの管理とカット

業務用マンチェゴは約3kgのホールで真空パックになっています。小売は、200g程度のカットのパックや、チーズ専門店なら量り売りで買えます。

ホールが円筒形のマンチェゴは、まずケーキを切るように、6~8等分にカットします。上下の外皮を取り除きます。縦にさらに半分にカットしても良いでしょう。横に倒し、上下面に平行に数ミリ厚さにナイフでスライスします。ホームパーティーでは、側面の網目を活かす、プレゼンテーションのアレンジもぜひ試して下さい。工場製のマンチェゴの外皮は、黒いワックスでコーティングされているので、食べられません。

羊乳は牛乳、山羊乳より脂肪分が高く、カットしてしばらくすると表面に脂が浮いてきますが、美味しく食べられます。切り残りは、アルミ箔やワックスペーパーでカット面を被い、ラップで密封して、冷蔵庫で保管します。カット面は酸化するため、次に食べる時はまず表面をナイフで薄くそぎ取ります。

(画像 THE CHEESE ROOM)

マンチェゴを食す

スペイン中で、朝から晩まで、生ハム、チョリソ(パプリカ、スパイス入りサラミソーセージ)、パン・コン・トマテ(トーストしたパンにトマト、にんにく、オリーブオイルの風味をつけたもの)と一緒に、あるいは若いマンチェゴをはさんだボカディジョ(サンドイッチ)が食べられます。はちみつ、ジャム、メンブリージョ(かりんを砂糖で煮詰めた羊羹のようなもの)がよく添えられています。

日本のスペインバルやレストランでも、マンチェゴはポピュラーです。メンブリージョはチーズ専門店で輸入品を買えますし、レストランやスペイン菓子専門店では自家製もあります。メンブリージョの作り方は簡単ですので、秋が旬のかりんを、山梨、長野、香川などの農家から取り寄せて、手作りをケソ・マンチェゴに添え、スペインワインと一緒にホームパーティーで出せば盛り上がります。ラ・マンチャ地方のワインを探して、楽しんではいかがですか?

メンブリージョの作り方 

<材料>

・ かりん               1㎏(普通サイズで3個くらい)

・ グラニュー糖

・ レモン汁

<作り方>

  1. かりんは、きれいに洗って、1/4にカットし、皮を剥き、種と芯を取り除きます。更に1/4にカットします。カリンは硬いので、ナイフで手を切らないように気をつけましょう。
  2. 鍋に入れ、ぎりぎりまで水を入れ、蓋をして、柔らかくなるまで25~30分程茹でます。
  3. 柔らかくなったら、水を切り、ミキサー、フードプロセッサー、ハンドミキサーなどで、ペースト状にして、目の細かいざるで濾します。
  4. ペースト状かりん、その重さの75%のグラニュー糖、レモン1/3個分のレモン汁を鍋に入れ、弱火から中火にかけます。
  5. ゴムベラで混ぜながら、約40分煮ます。段々色が濃くなり、硬くなってきて、色はベージュから茶色に変わったら、耐熱容器に入れて、ラップをかけて冷まします。冷めるとより硬くなります。
  6. 食べる時に好きな形にカットしてください。そのまま食べても、チーズに添えても、豚肉料理や鴨料理にもよく合います。

※ レモン汁を入れず、酸味を控えめにも作れます。

※ ペクチンの多いフルーツなので、ゲル化剤を入れなくても自然にゼリー状に固まります。

※ 冷蔵でも、冷凍でも保存可能です。

※ 煮込む時間を15分くらいで止めると、ソースとしても使えます。

スペインのチーズ

スペインにはおよそ200種類のチーズがあると言われています。

世界を見ると、出所で統計の値と新しさに幅があり目安としてになりますが、年間生産量は、365-400種類のチーズがあるというフランスがおよそ190万トンで世界3位、スペインは20数万トンで約18位、日本は10数万トンで32位あたりに位置します (source atlasbig)。

1人当たりの年間消費量は、フランスが20キロ後半から30キロくらいで1位、スペインは約8キロで、EU平均の約20キロより少なめです。日本は2014年の2.2キロから増えてはいても、2021年は2.7キロですから(農水省)、スペインはその3倍近くのチーズを食べています。

スペインのチーズの歴史

新石器、青銅器、鉄器時代の遺跡の発掘で、多くのチーズ造りの器具が見つかり、羊飼い、農民、庶民が自分で食べる粗野なチーズを作っていたと思われます。中世には、余れば村人や、北西部のサンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂を目指す巡礼者に売りました。1970年代、大手の乳業メーカーが大都市へ供給するため、チーズの工業製品化を進め、村で職人が作る伝統的なチーズとは違う製造・流通が始まりました。チーズの消費は拡大しましたが、模倣品が増えて、土地ごとのチーズの個性は曖昧になりました。重労働で、低収益の羊飼いや農家が仕事をかえ、村のチーズが消えました。2000年頃、国の経済発展で美食のトレンドが大きく変わり、職人製のチーズへの回帰が起こりました。伝統的なチーズを継ぎ、模倣品と区別するために、DOP(原産地名称保護)とIGP(地理的表示保護)制度に力を入れました。2021年末に認証登録がある、202食品目で(ワインなど飲料は別分類)、オリーブオイルの31(15.3%)に次いで、29のチーズは2番目に多く(14.4%)、重要な食文化です。

若い職人たちが途絶えたチーズを復活させ、新しいチーズを生み出しています。地方のチーズのコンテストも盛んです。

スペインのチーズの特徴

原料乳は、牛乳、羊乳、山羊乳があり、他の生産国より、羊乳のチーズが多く、2~3種の混乳のチーズは珍しいです。地形と気候によって、17州の乳種が違います。 羊乳と一言で言っても、羊の種が違えば味わいも違います。羊は原産種のマンチェガ、メリナ、ラチャの他、カステジャーナ、チュラは乳量が多めで、アルカレニャ、カナリア、ギラ、モンテシナ、リポセジャ、タラベラナ、と言う種がいます。

ブルーチーズは、北部沿岸のアストゥリアスとカンタブリアの、自然の洞窟で作られ、場所が明かされていない洞窟もあります。カスティーリャ・イ・レオンと合わせて3州のみです。

腐敗防止のためや、地元食材を活かすため、外皮にオリーブオイルを塗ったもの、パプリカパウダーをまぶしたもの、赤ワインに漬けたり、生地に加えたもの、などのチーズにスペインらしさがあります。

チーズと気候と土地環境
Copyright: Wine Scholar Guild

フランスのナポレオン1世の「ピレネーを超えればアフリカ」、と言う言葉は有名です。フランス革命で、王座と命を奪われたルイ16世も「ヨーロッパと呼んでいいのはピレネー山脈まで」と言ったそうです。確かに標高3,000メートル強のピレネー山脈の南沿いは降水量の少ない山岳地帯で、牛が生息、移動するのも、牛の餌である牧草が生えるのも厳しく、その気候と地形に適合できる山羊や羊が主な家畜になりました。 夏は暑く冬は寒い内陸部の平原は乾燥地帯で、ほとんどの家畜が羊です。

カンタブリア海に面する北部と大西洋にも接する北西部は、降水量が豊富なスペイン最大の牧草地 「緑のスペイン」で、牛の牧畜が可能で、ほとんど牛乳製チーズです。

イスラムの歴史が残したもの

2人のフランス人の言葉の意味は、スペインは711年から1492年まで700年以上、衣、食、建築、医学で、アラブ・イスラム文化の影響を受けたことにもあります。豚肉を食べない生活の糧は、羊料理、羊乳のチーズ、羊毛で、イスラム教徒を追い出したキリスト教徒に引き継がれました。

DOP(原産地名称保護)とIGP(地理的表示保護)

スペインで作られている約200種類のチーズの、26がDOP、3つがIGPです。 

最初の認証登録は、ナバラ州のロンカルで、1981年にスペイン国内のDOを取得、1996年にEUのDOPへ移行しました。1988年の7つから徐々に増え、2000年頃から加速して2005年に24になり、少しずつ増えています。最新では、2020年2月にカスティーリャ・イ・レオン州の羊乳の、Queso Castellano がIGPになりました。現在、エストゥレマドゥラの Queso Acehúche がDOPに申請中です。

29のDOP・IGPチーズは、国内全生産量の一部で、伝統的な製法や規定を厳密に守りオリジナリティがあることを示すものですが、それ以外のチーズにもすばらしいものがあります。

17州のDOP・IGP チーズ

全てのDOPとIGPチーズの写真と生産州が上の図で見られます。番号は下のリストと同じです。17州のうち、アラゴン、バレンシア、マドリッド、アンダルシアの4つの州には、認証登録がありません。2つは2州にまたがり、IGP Queso Los Beyos は、アストゥリアスとカスティーリャ・イ・レオン、DOP Idiazábalは、バスクとナバラ州の両方で作られています。

北西部ガリシア地方は牛乳製チーズの王国で、他の州では羊乳が多く、山羊乳、牛乳との混乳も多いです。

(1) ガリシア:4

① DOP Arzúa-Ulloa 牛乳

② DOP Cebreiro 牛乳

③ DOP Queso Tetilla 牛乳

④ DOP San Simón da Costa 牛乳

(2) アストゥリアス:4+1 

⑤ DOP Afuega´l Pitu 牛乳

⑥ DOP Cabrales 牛、羊、山羊の混乳

⑦ DOP Gamonedo 牛、羊、山羊の2種または3種の混乳

⑧ DOP Queso Casín 牛乳

㉘ IGP Queso Los Beyos (カスティーリャ・イ・   レオンと共通) 牛乳、羊乳、山羊乳、混乳はしない

(3) カンタブリア:3

⑨ DOP Picón-Bejes-Tresviso 牛、羊、山羊の混乳

⑩ DOP Nata de Cantabria 牛乳

⑪ DOP Quesucos de Liébana 牛、羊、山羊の2種または3種の混乳

(4) バスク:0+1

⑫ DOP Idiazábal  (ナバラと共通) 羊乳

(5) ナバラ:1+1

⑬ DOP Roncal 羊乳 

⑫ DOP Idiazábal  (バスクと共通) 羊乳

(6) アラゴン:なし

(7) カスティーリャ・イ・レオン:3+1

⑭ DOP Queso Zamorano 羊乳

㉗ IGP Queso de Valdeón 牛乳と山羊乳の混乳

㉙ IGP Queso Castellano 羊乳

㉘ IGP Queso Los Beyos (アストゥリアスと共通) 牛乳、羊乳、山羊乳、混乳はしない

(8) マドリッド:なし

(9) カタルーニャ:1

⑮ DOP Queso de L´Alt Urgell y la Cerdanya 牛乳

(10) エストゥレマドゥラ:3

⑯ DOP Queso de la Serena 羊乳

⑰ DOP Queso Ibores 山羊乳

⑱ DOP Torta del Casar 羊乳

(11) カスティーリャ・ラマンチャ:1

⑲ DOP Queso Manchego 羊乳

(12) バレンシア:なし

(13) ムルシア:2

⑳ DOP Queso de Murcia 山羊乳

㉑ DOP Queso de Murcia al Vino 山羊乳

(14) バレアレス諸島:1

㉒ DOP Mahón-Menorca 牛乳

(15) カナリア諸島:3

㉓ DOP Queso de Flor de Guía / Queso de Media Flor de Guía / Queso de Guía 牛、羊、山羊の混乳

㉔ DOP Queso Majorero 山羊乳、15%まで羊乳を混乳可

㉕ DOP Queso Palmero / Queso de la Palma 山羊乳

(16) リオハ:1

㉖ DOP Queso Camerano 山羊乳

(17) アンダルシア:なし

チーズを買う

工業製のチーズが多く出回るようになってからは、パックされたチーズをスーパーで買うこともできますが、スペインでチーズを買う良い方法は、メルカド(市場)や、コルマド(古くからある食料品店)、コルテ・イングレスのデパ地下グルメでの、職人製チーズの量り売りです。

スペインの都市では、地区ごとに常設の屋根付き市場があり、市民の台所です。肉、魚、卵まで沢山の専門店が入っていて、野菜や果物はばら売り1個から買えます。チーズ屋もあり、種類を豊富に取り揃えているので、何種類かを買いたいときも、好きな量ずつ切ってもらえます。

この10年ほど、マドリッド、バルセロナをはじめスペイン各地で、古くなった市場が次々リニューアルされて明るくなり、利用客が増えています。おしゃれに生まれ変わった市場内のバルで、チーズとピンチョスをつまんで、スペインワインとビールを飲むのが観光客にも、うけています。

クラシックな店構えのコルマドは、街のあちこちにあります。厳選したワイン、オリーブ、缶詰や瓶詰め、ビスケットやマドレーヌが、ところ狭しと棚に積み上げられていて、白衣の店員さんが取ってくれます。チーズは香り、味の好みでお勧めをしてくれるので、生ハム、総菜と同様、買いたい量を言って買います。

最近、マドリッドやバルセロナでは、パリにあるような、チーズ専門店が増えています。沢山の種類のチーズが積まれたディスプレイが目を引くモダンな店内で、テイスティング・イベントをして、職人の作るチーズを積極的にアピールしています。

チーズの食べ方

スペインの一人当たりのチーズ消費量は、ヨーロッパの中ではそれほど多くないですが、日本よりも手軽にチーズを食べています。ワインやシェリーのタパスとしてや、食事でデザート前に食べます。

ボカディジョ(サンドイッチ)、ブルーチーズのドレッシング、オーブン料理、お菓子にもします。朝食には、フレッシュチーズや薄く三角にスライスした羊乳のチーズを、蜂蜜やジャムと食べます。

スペイン産ナッツはとても上質で、アーモンドやくるみとチーズはよく合い、ヘーゼルナッツ、松の実入りのチーズのお菓子はとても美味しいです。

タイプ別では、熟成させていない、フレッシュチーズが国内の家庭消費の3割以上です。 

DOP・IGPに限っては、羊乳、ハードタイプのマンチェゴが、ユーロ換算の販売額で63%、販売量で53%と突出していますが、76%が輸出なので、スペイン国内の販売量は、生産量がマンチェゴの1/4以下ながら2位につける、単価が安く牛乳の風味が良い、ソフトタイプのアルスアウジョアと大差がありません。

ホテルの朝食のビュッフェで、牛乳よりやや香りの強い羊乳チーズが、生ハムやチョリソ(パプリカ、スパイス入りサラミソーセージ)と一緒に、沢山並んでいるのは驚きです。カリンを砂糖で煮詰めたメンブリージョが添えてあります。旅先の朝食で、地方特産のチーズを食べるのもスペインらしい楽しみ方です。

海外輸出

スペインのチーズの輸出比率は高くありませんが、29のDOPとIGPチーズに限ると、2021年のユーロ換算での輸出の割合は、51.3%で、国内消費を僅かに上回ります。

日本には15種類くらいが少量で輸入されています。専門店で買えるので、カリンを砂糖で煮詰めたメンブリージョも買って、はちみつ、ナッツ、オリーブと一緒に家で楽しんだり、スペインバルやレストランでは、マンチェゴやイディアサバル、ブルーチーズのバルデオンが食べられるので、ぜひスペイン産の赤ワインやシェリーと味わって下さい!

トルティジャ – じゃがいものスペインオムレツ

スペインを代表する料理と言えば、パエリャガスパチョ、トルティジャ、があがります。中でも、トルティジャは、日常的に食べている国民食でしょう。どこのバルにも朝・昼・晩にあり、出来立ても、冷めても、美味しいです。美食評論家たちは、スペイン伝統料理のシンボル、食文化のアイコン、宝石と言い、トルティジャを使ったことわざがいくつもあります。1999年からは、美食の地サンセバスチャンで、トルティジャ・チャンピオン大会が開催されています。ソーシャルメディアでは、トルティジャ・クラブなるものに毎日、自慢の写真やレシピがアップされています。

トルティジャとは

材料は、じゃがいも、卵、E.V. オリーブオイル、塩です。玉ねぎを入れるか入れないかは、家庭、料理人の間で、意見が分かれます。真丸く、2.5~4センチくらいの厚みがあり、どっしりとしています。スペインの有名シェフ達は、新鮮で良い材料を使うこと、火入れに気を配りゆっくりと焼くこと、を強調します。 卵液が少し残るjugoso(ジューシー)の状態のものが多いですが、もう少し焼いたものもあります。

基本のトルティジャ

<材料 直径25㎝>

  • じゃがいも                                  750g / 中6個
  • 卵                                                8個
  • E.V.オリーブオイル                               200~300ml
  • 塩                                                適量

<作り方>

  1. 洗って皮を剥き、2~3ミリに薄く切ったじゃがいもを、焦げ付かないフライパンに入れます。
  2. E.V.オリーブオイルを注ぎ、中火にかけ、じゃがいもが油分を含み軟らかくなるまで、「煮る」ようにゆっくり火を入れます。
  3. 余分な油はへらで押さえてしぼります。
  4. ボールで卵を良くほぐし、じゃがいもを加え、へらで軽くつぶすように合わせ、塩を混ぜ、1~2分馴染ませます。
  5. 焦げ付かないフライパンに流し込み、弱~中火にかけ、円を描くように揺するとすべるようになったら、フライパンより少し大きい皿、または*木製で片側に取手の付いた専用の蓋を被せて、上下を返し、中身を皿に移します。
  6. じゃがいもと卵を皿からすべらせてフライパンに戻し、ゆっくり火にかけ、裏面もすべるようになり、軽く色が付くまで焼きます。
  7. 皿をフライパンに被せ、ひっくり返して盛り付けます。

※ 玉ねぎを入れる時は、薄切りにして、E.V.オリーブオイルで軟らかく、茶色く色付くまでじっくり炒め、じゃがいも、溶き卵と混ぜます。ピーマン、きのこ、ソーセージも合います。

※ 暖かいものには野菜のトマト煮込み、冷めたものにはマヨネーズ・ソースを添えても、美味しいです。

※ バゲットのサンドイッチにもぴったりです。

*木製で片側に取手の付いた専用の蓋

トルティジャの名前

トルティジャは、詳しく言うとスペインオムレツ (tortilla Española)、 じゃがいものオムレツ (tortilla de patatas)です。バターを溶かしたフライパンで溶き卵を寄せて半分に折り返し、真中が太く両端に向かって細いオムレツは、フランスオムレツ (tortilla Francesa) です。

メキシコのトルティジャは、とうもろこし粉を薄く丸く焼いた生地で肉、野菜、チーズを包んだタコスや、小さい三角形の生地を揚げたチップで、唐辛子とトマトのサルサや、アボガドのディップと食べます。

ヨーロッパでのじゃがいもの普及

大航海時代の1527年頃、南米ペルーからスペイン南部のセビリア港にじゃがいもがもたらされました。低温や痩せた土地に適合して、北部地方に栽培が広がり、高い栄養価が質素な食を補いました。 ヨーロッパ諸国にも徐々に広まったものの、フランスでは花が観賞用で、芋は毒性がある悪魔の食べ物と信じられ、食用になるのが遅れました。18世紀から19世紀は、じゃがいもの疫病の蔓延で飢饉が起こり、戦時中は穀物不足でパンの代用に食べられるようになりました。

じゃがいものトルティジャの起源

一世紀頃のローマ帝国時代には卵料理、16世紀初めには揚げた卵、の文献記述があり、この頃からスペインでもトルティジャという言葉が使われています。黄金世紀に食べられていた卵料理は、卵だけのオムレツや、ハーブ、ベーコン、チーズを入れたものでした。 じゃがいも入りトルティジャ誕生の、最も有名な伝説は、第一次カルリスタ戦争中(1833~36年)、スマラカレギ将軍が、北東部のナバラ地方で空腹を満たすために寄った質素な宿には、じゃがいもと卵しかなく、有り合わせでトルティジャが作られた、と言うものです。

丸ごとトルティジャの本

スペインで最も広く読まれている新聞 El País で、30年以上、美食ジャーナリストの、ホセ・カルロス・カペルさんの著書に、「Homenaje a la tortilla de patatas (じゃがいものトルティジャへのオマージュ(敬意)」があります。 295ページのハードカバー装丁は、卵の黄身の真黄色、帯は赤です(黄色と赤はスペイン国旗の色です!)。 トルティジャの伝統、じゃがいも、卵、オリーブオイル、塩について詳しく書いています。また、革新的な料理で世界をけん引するスペイン流に、トルティジャも進化していく、と強調しています。

カペルさんは、2003年から毎年、輝かしい受賞歴、料理アカデミーでの講義、コンクール審査員、著書、料理番組で、スペイン料理界に影響力のある、レジェンドと新進気鋭の料理人が、料理哲学、革新的技術、トレンドを語る 「マドリッド・フュージョン」 という美食イベントを開催しています。同年に出版した本には、当時フランスのミシュランガイドで、合わせて22の星を持っていた、12人のシェフが、トルティジャへの思いと、5つずつのオリジナル・レシピを寄せています。

キャビア、フォワグラ、トリュフや、既製品のポテトチップを使ったもの、茹でたじゃがいも、クリーム、オリーブオイルをミキサーにかけ、サイフォンでエスプーマ(泡状)にして、炒めた玉ねぎ、サバイヨン(乳化した黄身)と、カクテルグラスに盛り付けた「脱構築トルティジャ」、薪火で薫香をつけたもの、など、シンプルで丸いトルティジャの概念を覆すものばかりです。

シェフ達のトルティジャ

フェラン・アドリア (エル・ブリ、1997年から2011年の閉店まで3つ星)

トルティジャの思い出は、幼少期の母親のトルティジャと、兵役時代のものです。 兵役の調理部で、週に一度、3,000個のトルティジャを同僚と焼くのが大変でした。一番高くひっくり返す競争が楽しかったです。エル・ブリで、スタッフがポテトチップでもできるのではと言った時は、まさかと思いましたが、薄い塩の味付けで試すと美味しくできました。

アンドニ・ルイス・アドゥリス (ムガリッツ、2000年1つ星、 2005年~現在2つ星) 

トルティジャの想い出は、数えきれないほどあります。材料は卵、じゃがいも、オリーブオイル、塩だけで、誰の経済的負担にもならず(まずいピザよりトルティジャを食べた方がいいのに!)、特別な道具も技術も要りません。トルティジャを食べている人たちの間には、会話と人の輪が広がりますが、それこそが社会だと思います。

ヒラリオ・アルベライス (スベロア、 2つ星)

卵料理で、最も日常的でスペインらしく有名なのは、間違いなく、じゃがいものトルティジャです。私は玉ねぎを入れます。料理人としての使命は、伝統的な材料に新しさを加え、ガラスの器で出すような洗練されたスタイルのトルティジャも生み出すことだと思います。でもやはり、山にハイキングに行った日の温かな夕暮れ時、木陰で小川に足を浸して涼んでいると、本当に!食べたくなるのは、伝統的なトルティジャで、それに一杯のシドラ (りんご酒) があれば満足です。

マルティン・ベラサテギ  (Martin Berasategi、1993年1つ星、1996年2つ星、2002年~現在 3つ星)

子どもの頃、スペインは豊かさとは無縁で、皆つましい生活をしていました。母親と叔母の気取らないレストランで、いつも興味深く見ていると、朝早くから働き詰めの労働者が、つかの間の休憩に食べるのは、トルティジャでした。食べ疲れない優しい味、労働の活力源の炭水化物と脂質が豊富で、安くて、良い事ずくめですから。休日の夜には、寛いだ学生、年金生活者、カップルや夫婦が食べていました。私が最初に覚えた料理もトルティジャですが、私と母、叔母にとって大事なのは、豪華な料理や、ミシュラン的な流行よりも、労働者たちに心を込めて美味しいトルティジャを作ることでした。ずっと努力を続けているのは、私自身がそういうトルティジャを食べたいからです。

ジョアン・ロカ (El Celler de Can Roca、1995年1つ星、2002年2つ星、2010年~現在3つ星)

子供の頃、朝目が覚めると、トルティジャのいい匂いがしました。母と祖母が最初に教えてくれた料理もトルティジャです。2人の弟たちと調理学校にいた頃、朝食のパン・コン・トマテとトルティジャを、毎日生徒が交代で作って、ほかの生徒はその出来栄えを手加減なしにあれこれ言うので、当番の日は緊張したものです。

カルメ・ルスカジェダ (サン・パウ、1991年1つ星、1997年2つ星、2009年~2018年の閉店まで3つ星)

私の家の思い出のトルティジャは、季節の野菜や他の食材のものですが、間違いなく、じゃがいものトルティジャがスペイン料理の代表です。丸くてなめらかな表面の焼き色が光っている、トルティジャは誘惑的で、皆でフォークでむさぼるように食べていると、知らず知らず、どこのトルティジャが一番美味しかったかという話になります。その絶品を皆で食べに行っては、また分析して、褒めたり、けなしたり、議論になるのです。

日本でも

日本でピンチョスを拡め、CEJでもご紹介しているL’ESTUDI レ・ストゥディ、BIKINIチェーン店のBIKINI MEDIBIKINI PICARBIKINI 赤坂のジョゼップ・バラオナさんは、日本でピンチョスを拡め、マヨネーズの本で、じゃがいもの他、きのこ、ほうれん草、パプリカピーマン、パカラオ(タラ)、えび、なすのトルティジャを紹介しています。 ぜひ日本のスペインバルやレストランで、トルティジャを味わってください!

スペインのパン – ボカディジョ、パン・コン・トマテ、エンサイマーダ

スペインのパン

スペイン料理で世界に最も知られているのは、パエリアでしょう。でもスペイン人は毎日、米料理を食べるわけではありません。パエリアは元々、週末に海や山で、あるいはお祭りの日に、昼食にわいわい食べるものです。米の生産量は、世界12位前後の日本の10分の1以下で40位くらい、30位あたりのイタリアの約半分です。 スペインの主食はパンです。

スペインのサンドイッチ、ボカディジョ

今も昔も、スペイン人のお弁当と言えば、ボカディジョです。スペインのバゲットやpan de barraという、長めのパンを上下半分に切って具をはさみます。定番は生ハム、羊乳のチーズのスライス、その両方、あるいは、じゃがいものオムレツのトルティジャです。トルティジャの上にグリルしたピーマンが入ることもあります。遠足のお昼は、ほぼ全員がアルミホイルに包んで親が持たせてくれるボカディジョです。中には板チョコが丸ごと挟んである子もいて知らないとびっくりしますが、バターとチョコレートとバリっとしたパンはすばらしい組み合わせです。ソーセージのスライスのボカディジョもあります。あらゆるジャンルのお弁当がある日本と比べると、シンプルですが、スペイン人は飽きないようです。

バルではテイクアウトもできます。30年ほど前、ボカディジョ専門チェーンの店舗が沢山でき、豊富なバリエーションが人気でしたが、バルのボカディジョがすたれる事はありません。

スペイン人は、朝早くにしっかり朝食を食べず、カフェ(コーヒー)だけか、それにクロワッサンや薄くて丸い素朴な(マリア)ビスケットというのが普通で、10~11時頃に15分の休憩Almuerzoをとり、クロワッサンやボカディジョを食べます。最近は、出勤前にカフェで新聞や、メールをチェックしながら、ボカディジョを食べている人の姿も見かけます。
パン・コン・トマテ

もう一つの、人気のパンの食べ方が、パン・コン・トマテです。 カンパーニュパンなどをスライスし、網やグリルで焦げ目がつくほどしっかり焼いて、半分に切ったにんにくの風味をつけます。熟した中玉トマトを横半分に切り、パンにこすり付けてジュースをしみ込ませます。E.V.オリーブオイルをたっぷりかけ、塩をふります。カタルーニャ地方で良く食べますが(カタラン語で「パントゥマカ」)、スペイン中で人気です。生ハム、チーズ、仔羊肉のグリル、小魚とホタルイカのフリット、米料理、何にでも良く合います。レストランやバルで、完成したものがでてくることもあれば、自分で作るように、グリルしたパンと材料が別々に出てくることもあります。初めてなら、まずお手本を見せてもらって、手作りのプロセスも楽しみましょう。 

パン・コン・トマテは朝食にもあり、特に南のアンダルシアとムルシア地方では、トーストしたパンの上に、すりおろしたトマトをスプーンですくってのせ、やや控えめにオリーブオイルと塩をふります。伝統的なやわらかくふかふかしたパンのモレテも好まれます。ホテルの朝食ビュッフェにも用意されていて、暑い夏の朝にもトマトの酸味が食欲をそそります。

バレアレス諸島・マジョルカ島のエンサイマーダ

もう1つの名物パンに、マジョルカ島のエンサイマーダ(Ensaimada)があります。棒状になった生地をぐるぐる渦巻き状にして、オーブンで焼き上げ、ふわふわとした生地に白い粉砂糖が美しくかかっていて、生地にはたっぷりとラードを使っています。

起源説はいろいろですが、イスラム、ユダヤ、キリスト教の文化の融合がその由来と思われます。アラブのお菓子で使われていた羊乳バターとオリーブオイルは、キリスト教徒の手においてラードにとって代わりました。1492年にアラブ王国が消滅した時、イベリア半島にとどまるためには、キリスト教に改宗をするより他なかったアラブ人や、ユダヤ教徒に、食することが禁じられていた豚の脂を使ったエンサイマーダを、踏み絵のように食べさせたという逸話もあります。

スペイン家庭での肉消費量の内、豚肉は生肉では鶏肉についで2番目ですが、生ハムやソーセージの加工肉の80%は豚肉で、全体では豚肉が約40%、鶏肉の30%を上回ります。外食もあるので、豚肉の消費はかなりの量で、豊富なラードが使われてきました。

プレーンのエンサイマーダの他、カベジョ・デ・アンヘル(Cabello de ángel、天使の髪、そうめんかぼちゃの甘煮)、生クリーム、カスタード、チョコレート入りの甘いタイプ、アプリコット入り、ソブラサダ (Sobrasada)という、マジョルカ特産でパプリカ入りのしっとりしたソーセージの塩味のものもあります。直径8cmくらいのもの、直径14cmくらいのものから、直径30㎝くらいの切り分けるものまであります。

エンサイマーダは、2004年にIGP (Indicación Geográfica Protegida、地理的表示保護)に、菓子パンの部類で登録されています。EUが規定した地理的由来の品質・評価・特性があり、生産工程の一部が、一定の地理的領域で行われている、農産物を保護する制度です。

登録対象は、プレーンとカベジョ・デ・アンヘルの2つのみで、詳細な形状の表現があり楽しめます。

エンサイマーダ・デ・マジョルカ : 詰め物なし、重さは60gから 2kg。

エンサイマーダ・マジョルキナ : エンサイマーダ・デ・マジョルカと同じ生地に、エンジェルヘア (そうめんカボチャの果肉を砂糖と煮たもの) が入ったもの。重さは 100gから3kg。

形状はどちらも時計回りに2回転以上の渦巻きであり、表面は波状、金色、しっかりとぱりぱりで、つぶれやすいです。内部は柔らかく、しっかり凝集性が高く、弾力性はとぼしいため、内部のパイ生地がしっかり確認できます。焼きたての生地には甘い風味と香りがあり、底はしっとり滑らかで、どちらも、粉砂糖を振って白くしても良いです。生産の地理的領域は、バレアレス諸島に属するマヨルカ島のすべての自治体が含まれます。

エンサイマーダの作り方

材料は、水、砂糖、卵、酵母、強力粉、ラードです。 卵と砂糖、水と酵母をよく混ぜ合わせしばらくなじませたら、強力粉を加え、手にくっつかないくらいの弾力がでるまでミキサーか手でこねます。オイルを塗ったボウルに入れ1時間ほど発酵させたら、オイル塗ったテーブルの上に生地を広げ、薄く伸ばし、ラードを塗ります。できるだけ薄くなったらくるくると巻き、布巾をかけ30分ほど休ませます。生地を引っ張り伸ばし、オーブンペーパーの上に、隙間を開けて渦巻き状に置きます。常温で15時間くらい発酵させ、約180℃のオーブンで20~30分焼きます。冷めたら上からたっぷりと粉糖を振りかけます。

スペインのパン事情

スペインの美食家で、30年以上、スペインで最も広く読まれている新聞 El País の食のジャーナリストで、Instagramに10万人のフォロワーを持つ、ホセ・カルロス・カペルさんは、スペインにはおよそ315 種類のパンがあると見積もっています。

北欧、ドイツ、オーストリアのように、冷涼な国では茶色いパンが多く、ピレネー山脈北側のフランスでは、全粒粉、ライ麦粉、他の穀物もよく混ぜられます。質の良い小麦が栽培できる南欧では、軟らかく軽い食感の白いパンが好まれましたが、栄養価は下がります。

スペインではずっと、特にフランコ政権の間、ライ麦、大麦、ソバ、全粒小麦のパンは「貧しい人々の食べ物」と見なされていました。スペイン固有で、普通小麦の最古の原種の、白を意味するCandealと言うデュラム小麦は、栄養価が高く、その小麦粉で作るパンの品質が、国内最高評価の小麦です。これらのことから、かつて、レストランやバルで出てきたのは、外皮はなめらかに乾いていて、中は白く柔らかで目の詰まった、素朴で混じりけのない味わいのパンがほとんどでした。健康的な食事への関心が高まると、全粒粉パンも作られるようになりました。

20年ほど前から、パン屋の仕事が機械化され、伝統的な作業が簡素化されていきました。自然の材料のみで職人が手作りするパンは、人工添加物を使用したパンより味も香りもはるかに強烈で、数日経っても柔らかく美味しかったのですが、そういうパンはなかなか食べられなくなり、スペインのパンの消費量は大きく減少しました。先述のCandealデュラム小麦は、収量が低く収益性が悪いため、高品質にもかかわらず姿を消しつつあります。

近年、そうした状況に危機感をいだく生産者の間で、地中海の伝統的なパン文化を立て直そうとする動きが顕著です。オリーブオイルやワインに大きく後れを取っている、IGP(地理的表示保護)保護地理的表示の登録をする地方が出てきて、現在6つあります。Pan de Cea (2005、ガリシア)、Pan de Cruz de Ciudad Real (2009、カスティーリャ・ラ・マンチャ)、Pan de Pagès Català(2013、カタルーニャ)、Pan de Alfacar(2013、アンダルシア)、Pan Gallego (2019、ガリシア)、Mollete de Antequera (2020、アンダルシア)です。

消費者は、サワードウ、薪のオーブンで、じっくり焼いたパンへの回帰と、無添加、オーガニックや亜麻のようなヘルシーなものを求めるようになっています。

もう一つのトレンドは、おしゃれなパン屋さんが増えていることです。パリに引けを取らないクロワッサンを作るパン職人が次々に誕生して、2008年には、スペインのベストクロワッサンのコンクールができました。バルセロナ市がスペインのシグネチャーベーカリーの新しい波の中心と目されています。

パン事情の変化が大きいスペインを、次に訪れる時は、パン屋さん巡りをして見てはいかがですか? 日本では、ぜひスペイン料理店のメニューにパン・コン・トマテがあれば注文したり、スペインの生ハムやチーズのボカディジョを作って、ピクニックを楽しんでください!

ガスパチョとサルモレホ

スペインの冷たいトマトのスープ

スペインで最もポピュラーな冷たいスープと言えば、ガスパチョです。

古くから伝わるトマトと野菜のスープですが、伝統的なレストランやバルだけでなく、モダンなレストランやカフェでも、メニューに載っているところがあります。デリではテイクアウト用の透明なカップに入れて売られていますし、スーパーやデパ地下で、牛乳のようにパック入りのものを買うこともできます。自分の家で料理するのも一般的です。

今や、世界中でその名前は知られるようになり、スペイン料理という枠を超えて、フランスや中南米などでも、オリジナルのガスパチョをレパートリーにしているシェフがいます。日本でも、検索すると、レシピが沢山出てきて、浸透ぶりがうかがえます。

スペイン映画から見えるガスパチョ

スペイン映画界の巨匠、ペドロ・アルモドバル監督の、30年ほど前の出世作 「神経衰弱ぎりぎりの女たち」 という映画の中で、ガスパチョが出てくる場面が3回あります。まずカルメン・ラウラ扮する、不安とイライラをかかえた女主人公が、マドリッドの自宅のキッチンで、雑にトマトを切り、出来たばかりのガスパチョをミキサーから、いきなりぐいっと飲むシーンです。 

そして、別の日に彼女の家に友人たちが集まっていると、事件が起こり、動揺した1人が、からからの喉をうるおそうと、あわてて開けた冷蔵庫にガスパチョを見つけ、これまた大きなピッチャーから直に一気飲みをするシーンです。

最後は、恋敵と捜査目的の2人の警察官が家に押し入って来て、彼らにガスパチョを振舞うシーンです。

この大胆さには圧倒されてしまいますが、実はこれは、スペイン人の生活の中でのガスパチョというものを、よく表しているかもしれません。 スペインの夏はとても暑い! ぐったりして、火を使う料理をするのは嫌だけれど、ガスパチョなら、トマト、きゅうり、ピーマン、玉ねぎ、にんにくを、水、オリーブオイル、酢と一緒にミキサーに放り込んで回すだけです。

仕事や子どもの送り迎えで時間がなくても、料理が面倒でも、短時間で作れる上、色の濃い野菜のビタミン、にんにくの滋養強壮効果、オリーブオイルの抗酸化作用などが得られます。 今で言う、地中海式ダイエットにも通じています。

招かれざる客に対してさえ、ガスパチョを振舞うとは、日本で言えば、お茶を出すような感覚の飲み物なのでしょう。 ガスパチョはレストランや自宅のテーブルに座って、スープ皿とスプーンで「食べる」ものとは限りません。コップで「飲む」ことができるくらいの、さらっとした濃度です。

そして、夜が更けるまで仲間とわいわい楽しむのがスペイン流で、長いスペインの一日の、栄養補給になります。

このような、手軽さと、スペインの気候風土にあった飲み口が、根強い人気の理由なのでしょう。

ガスパチョの起源

いろいろな研究を大筋でまとめると、古くはローマ帝国の時代に水に浸した古いパン粉のスープを食べる習慣がありました。イベリア半島で最後のイスラム王朝として、スペイン南部アンダルシア地方のグラナダを統治したナスル朝(1230年~1492年)の歴史的文書に、アラブ人がパン、油、酢だけのスープを野外で楽しんでいたと記されていました。イベリア半島の他民族の羊飼い、兵士、農民なども、乾いたパンを水に浸して手で潰し、にんにくを潰したものや、玉ねぎのみじん切り、油と混ぜて食べていました。

15世紀から始まる大航海時代の16世紀頃、中南米、特にメキシコとペルーから、トマトやピーマンの原種の唐辛子がスペインに入って来るようになると、それらも混ぜて食べました。

パンが焼かれたのはせいぜい週に1度くらいの時代には、パンは硬くなり、水分で柔らかくしなければ食べられなかったでしょう。大航海時代、アンダルシアの港湾都市セビリアが栄え、トマトやピーマンなど新大陸からの野菜はこの地にもたらされました。港町のウエルヴァや、コルドバ、マラガなどの周辺はワインの一大産地でしたが、当時はワインを安定化するのは難しく、酢(ワインヴィネガー)ができ多くあったと考えられます。そしてスペイン南部はオリーブの主要な産地です。

こうしてアンダルシア地方でガスパチョの原型が生まれたと言うのは、うなずけます。19世紀初頭には、質素ながら栄養価が高いガスパチョは、暑いアンダルシアの農民と日雇い労働者に欠かせないものでした。

以後、発展を遂げ、スペイン中で季節を問わず食べられる国民食になりました。パンはもはやメインの材料ではなく、入れずに作る、あるいはとろみをつけたい場合に少量入れる程度になっています。高級ホテルや星付きレストランなどでは、美しく盛り付けられたガスパチョが提供されています。

トマトの半分くらいの分量を、すいか、いちご、桃などの季節のフルーツに置き換えてつくるガスパチョのバリエーションも人気です。

もう一つの冷たいスープ サルモレホ

ガスパチョとよく似た冷たいスープにサルモレホがあります。ガスパチョと同様、生まれたのはアンダルシア地方ですが、特にコルドバと言われています。違いは、材料がパン、トマト、にんにく、E.V.オリーブオイル、酢、塩だけで、ピーマン、きゅうりや水を入れない事。パンをたっぷり入れるので、スープというよりも、もったりとしたピュレ状で、スプーンやパンですくって食べます。 サクサクに揚げた茄子にソースのようにつけて食べてもとてもよく合います。トッピングは、ガスパチョが、刻んだ野菜とパンのクルトンを添えるのに対して、サルモレホは刻んだ固茹で卵と生ハムを散らし、オリーブオイルを回しかけます。 

皆さんもぜひ、スペイン料理のレストランやバルで、食べ比べを楽しんだり、自分で食材やトッピングにアレンジを加え作ってみてください! ホームパーティーやイベントにもぴったりです。

ガスパチョのレシピ

<材料(3-4人分)>

完熟トマト                                   1 ㎏ / 8個

にんにく                                       1片

ピーマン                                    80g / 2個

玉ねぎ                                           40g 

きゅうり (皮を剥く)            80~100g / 1本

酢                                                 25g

E.V.オリーブオイル                     50ml

塩                                                 小さじ1

氷                                                 8個

冷水                                             200ml

<作り方>

  1. 洗ってざく切りにした、完熟トマト、ピーマン、きゅうり、玉ねぎと、皮を剥いたにんにく、ヴィネガー、塩をミキサーにかける。
  2. 氷を加えて再びミキサーにかける。
  3. E.V.オリーブオイルを加え、なめらかになるまでミキサーでまぜる。
  4. 好みの濃度になるまで、冷水を加えてまぜる。
  5. 冷やしたスープ皿に注ぎ、お好みで、E.V.オリーブオイルを回しかけ、サイコロ状に切ってトーストしたパンまたは揚げたクルトン、細かく刻んだトマト、ピーマン、きゅうり、玉ねぎを散らす。グラスでもOK。

※時間があれば、氷なし、水だけミキサーに入れ、ピッチャーで冷蔵庫で良く冷やしてもかまいません。 

※冷蔵で2日ほど、作り置き保存が可能です。

※トマトの皮などがざらざらと口に残るのが気になる場合は、湯剥きをするか、最後に目の粗いざるで、濾します。

※酢は、白ワインヴィネガーや、シェリーヴィネガーがあれば、よりフルーティーな酸味の仕上がりになります。

※パンを入れれば、とろみのある口当たりになります。パプリカ(赤・オレンジ)を入れてもOKです。

※トマトの分量の1/3から半分を、すいか、いちご、桃などの季節のフルーツに替えても美味しくできます。水分の多いフルーツは、水の量を調節して下さい。

サルモレホ

<材料(3-4人分)>

完熟トマト                                   1 ㎏ / 8個

にんにく                                       2片

パン (内側の中身だけ)        150g

酢                                                5g

E.V. オリーブオイル                    100gml

塩                                                 小さじ1

茹で卵                                            1~2個

生ハム                                             適量

<作り方>

  1. 洗ってざっくりと切ったトマト、皮を剥いたにんにく、酢、塩をミキサーにかける。
  2. 耳や外側のクラストを取り除いたパンを、適当な大きさにカットして、ミキサーに加え、なめらかになるまでまぜる。
  3. E.V.オリーブオイルを加え、更にミキサーにかける。
  4. ピッチャーなどの容器で、冷蔵庫で良く冷やす。
  5. 冷やしたスープ皿に盛り付け、E.V.オリーブオイルを回しかけ、サイコロ状に切ってトーストしたパンや揚げたクルトン、細かく刻んだ茹で卵と生ハムを散らす。

※パンは甘めのリッチな食パンなどよりも、油分の少ない素朴なパンが向いています。 

※硬くなったパンは、ざく切りのトマトと一緒にボールに入れ、しばらく置いてしっとりさせると、なめらかに仕上がります。

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